医学書院 訪問看護と介護 2006.vol.11 No.2

小児の在宅医療の課題と
訪問看護師への期待


吉野浩之 吉野真弓 田中裕次郎
福地雅彦 太田秀樹
医療法人アスムス おやま城北クリニック

 進む小児医療と
進まない小児の在宅医療
近年,小児医療は急激な進歩を遂げており,これまで治療が困難であった病気の子どもたちも元気に成長することができるようになってきた。その一方で,障害とともに生きていかざるを得ない子どもや,長期間の入院を余儀なくされる子どもも少なくない。
また,高齢者を中心にした在宅医療システムは徐々に整備されつつあり,在宅医療の環境は整いつつある。さらに,ME機器の進歩により,人工呼吸器や種々のモニターなどの精密な医療機器であっても,小型化され,繰作が簡単で,維持管理も容易な機種が開発され,在宅でも安心して使用することができるようになってきた。
とはいえ,家族や患児自身が自宅での療養を希望している場合でも,さまざまな理由から在宅医療への移行が行なわれていないケースも少なくない。こうした現状を踏まえ,高齢者を含めた在宅医療システムの中での小児在宅医療の状況を分析し,訪問看護師に必要な小児の知識,訪問看護師の役割について考察する。

 小児医療の現状
新聞などでは,頻繁に「小児科医の不足」「小児救急医療の不備」「小児科病棟の閉鎖」などといった記事が報道されている。まさに,小児医療は危機
に瀕しているといっても過言ではない。
高度な小児医療を支える大病院の小児科病棟やNICUの抱える問題として,長期入院の患児が増加しているため,急性期の患児を受け入れることができないといった問題が出てきている。
また,医療費増大が社会問題となり,入院期間の短縮が叫ばれる中で,小児であっても早期退院の可能性を模索する動きが高まっている。こうしたことを背景に,小児における在宅医療は注目を集めつつある。

 患児や家族にとっての
在宅医療の意義
子どもの長期入院が及ぼす影響

 子どもの長期入院は,患児自身やその家族にさまざま悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。
子どもが長期に入院することは,小児の心理的発達の観点から好ましくないと言われている。長期入院の患児は,親と生活をともにしないことにより,いわゆる「病院の子」になってしまう。もちろん,小児科の看護師やボランティア,小児科医などは,可能な限り愛情を持って患児たちに接していることは疑いのないことであるが,やはり,親の愛情には及ばない。
一方,子どもの長期入院は患児のみならず,親やきょうだいを含めた家族関係にも大きな影響を与えることが知られている。長期間の母子分離,父子分離により,親子の愛情形成に障害が起きる可能性があることや,患児のきょうだいにも心理的影響があることが指摘されている。こうした面からも,小児の在宅医療は積極的に推進されるべきであると考える。

親子が一緒に暮らす権利を支える

 これまでは,重度の障害を持った子どもは,「病院か施設で一生暮す」ことが常識とされてきた。しかし,医療機器の進歩により,人工呼吸器や種々のモニターなどの精密機器であっても,メンテナンスが容易で,故障の少ないものができており,たとえ重症の障害児であっても,在宅で生活していくことが技術的に可能となってきている。今までは親やきょうだいと離れて暮すことが常識とされてきた子どもたちにも,在宅で家族と一緒に生活することができる可能怯が出てきた。
「親と子が一緒に暮らす」ことは当然の権利であり,それを支援していくのは訪問看護師の大きな役割と言えよう。

 在宅医療システムの中の小児

 今や在宅医療は国を挙げて取り組んでいる重要課題となっており,その整備は全国的に進みつつある。近い将来,在宅医療は病院医療と並ぶ重要な医療の場になってくることは間違いない。しかし,在宅医療に対する理解は医療者の間でさえ十分とは言えず,未だに「病状の安定した寝たきり高齢者を訪問する医療」と捉えられている。
確かに在宅医療は2000年4月に始まった介護保険制度により急速に広まったため,「高齢者の医療」と認識されていることは否定できない。しかし,在宅医療システムは,65歳以下の難病疾患,若年障害者はもちろんのこと,小児に対しても十分に対応できるはずである。
在宅医療は,年齢,性別,疾患や障害の程度にかかわらず,一定の条件が整っていれば可能である。本人や家族の「家に帰りたい」という強い意思があることを前提とし,在宅医療に必要な看護力,介護カ,療養環境の,いわゆる「在宅3条件」が整っていれば,いかなる症状の小児であっても在宅療養は可能である。

小児在宅医療の問題点

 しかし,現状では重度の障害を持った子どもが在宅で生活することは容易ではない。行政制度をはじめ,さまざまな解決すべき課題があることも事実である。

サービスが未整備であること

 まず,第一に,小児は介護保険制度の適応外であるため,現在の介護保険システムが使いにくい。例えば訪問入浴サービスでは,市町村の中に子どもに対応してくれる業者がいない場合には受けることが困難になる。極端なケースでは,市町村の境をわずかに越えているだけで,ある子どもはサービスを受けることができ,別の子どもは受けられないということも,実際に起こっている。
また,介護保険制度の中では当然と考えられるレスパイトケアも,小児では受けられないケースがある。小児を受け入れてくれるショートステイは限られており,たとえ都道府県内に対応してくれる施設があったとしても,県庁所在地に限られているなど,実際には距離が遠く利用できないといったことも少なくない。
レスパイトケアのない中での介護は家族への負担が重く,これが小児の在宅療養が進まない要因の1つとなっている。

ケアマネジメント担当者の不在

 そして,行政(役所)の中で,在宅療養を行なっている子どもに対応する部署がはっきりせず,どの窓口で相談するべきか迷うケースも多い。在宅療養をしている重症の子どもというケースに対しては,どのような対応をしていいのか,行政自体がわかっていないことも少なくなく,結果として行政の窓口で「たらいまわし」になってしまうことがある。
さらに,介護保険制度の中で中心的な役割をもつケアマネジャーが,小児では存在しない。本来ならば,市町村の保健師か,病院のメディカルソーシヤルワーカー(MSW)の仕事であろうが,市町村の保健師は医療依存度の高い小児の対応に不慣れであり,退院後の患児のケアマネジメントにMSWが関わることも困難である。
こうした現状から,マネジメントの専門知識も社会資源の情報もない患児の親が,自分でマネジメントを行なわざるを得ない。24時間の介護を必要とする子どもの親が,専門の相談員も窓口もはっきりしない役所に行き,苦労しながらサービスの要望や手続きをしているのが現状である。

病院・在宅双方の医療者にとってのハードル

 一方,医療者の対応も十分ではない。病院の小児科医や小児病棟の看護師は,在宅医療の知識が十分にあるとは言い難い。多くの病院の医療者は重症の子どもが在宅療養するという意識がなく,「医療は病院で行なうもの」という固定観念をもっていることが少なくない。このため,積極的に在宅移行を考慮していないのが現状である。
さらに,本来なら小児であっても在宅療養を支えるべき訪問看護ステーションや在宅医の中にも,「小児の看護や医療は特別のもの」という先入観から,小児への対応をためらうところも少なくない。小児医療の経験がない医療者にとって,小児医療へのハードルは決して低いものではないのかもしれない。

 栃木県内の小児訪問看護の現状調査
小児科の経験は必ずしも重要でない

 このような実情から,筆者らは栃木県内の小児在宅医療の現状についての調査を行なった。栃木県内の訪問者護ステーションに対し,2005年1月,電話およびアンケート法を用いた調査である。
栃木県内57か所のステーションのうち,小児の訪問看護を行なっているのは16か所(28%)で,患児は32人であった。「現在は行なっていないが今後行なうことも可能」と答えたステーションは30か所(53%)であり,合わせて81%と,多数のステーションが小児に対応できる可能性があることがわかった(図1)。
また,栃木県内で訪問看護を受けている在宅患児の重症度を図2に示す。患児の受けている医療内容や疾患名を参考に,患児を超重症,重症,中等症,軽症の4段階に分類した。超重症と重症を合わせると73%であり,医療依存度が高い患児が多いことがわかった。
そして,小児の訪問を行なっていないステーションのナースは,「小児科経験があること」を重視しているのに対して,実際に行なっているナースは小児科経験をさほど重視していないことがわかった(図3)。
このことから,「小児の訪問を始めるまでは小児科経験がないことを気にしていたが,実際に始めてみると小児科経験はそれほど重要でない」と言えよう。さらに,われわれの訪問診療の経験でも,「小児としての特殊性よりも,年齢を超えた在宅医療としての共通点のほうがはるかに大きい」と感じている。

 小児の訪問看護の特徴

 先に述べたように,子どもの訪問看護は決して特別なものではない。しかし,確かに高齢者への訪問看護と比較していくつかの特徴はある。

●子どもは成長する
1つは,療養期間が長期であることである。疾患や患児の病態にもよるが,何十年となるケースもまれではない。さらに,子どもは成長するものである。出入り口や廊下の幅,入浴施設などの療養環境は,将来の成長を見越して整備する必要がある。

●介護者が親である
次に,介護者が親であるということである。親という非常に熱心な介護者であることが,時として医療者と親との関係作りを困難にすることもありうる。その反面,在宅移行当初はおぼつかない手つきの親も,時間とともに有能な介護者・看護者へと成長することがよくみられる。一般に高齢者の介護者よりも,小児の介護者は年齢が若く,熱意にあふれていることが多いため,単なる介護者から,時間とともに非常に有能な介護者に育っていくものである。

●「教育」という問題
さらに,小児では,医療,介護,福祉に加えて「教育」という問題があることも,高齢者との大きな違いである。その子の能力に応じた適切な教育を受けることは,すべての子どもに与えられた権利である。重い障害を持った子どもも,適切に感情を表現し,能力を最大限に引き出して,人間らしい生活を送っていくための教育も重要である。

 このように,小児では高齢者介護にはない特殊性もある。しかし,訪問看護の経験のある看護師にとって,決して難しいものではなく,意欲や情熱があれば誰でも行なうことができると考えている。

 地域におけるシステム作り
病院からの在宅への移行期が重要

 これまで述べてきたように,小児の訪問看護には,現状ではさまざまな課題はある。しかし,多くの問題は,「地域における支援システム」の未整備から来るものといえよう。病院での在宅移行システム,行政の対応,制度,在宅支援システムの不備などである。これらの解決のためには,地域における支援システムが機能することが重要となる。
小児が在宅療養を行なう上で,地域においてケアに関わりのある職種は多岐にわたる(図4)。このため,筆者らは病院から在宅に至るまでのシステム作りを重視している。

在宅移行後の医療を確保する

 まず,システムが機能するように可能な限り退院前に道筋を作っておく必要がある。この際,病院のMSWが重要となる。MSWは,患児の病態に合わせて,患児の暮らす地域での訪問看護や訪問診療の現状を把捉し,在宅移行後の医療を確保する。
現在,日本のかなりの地域に訪問看護ステーションがあるので,在宅医療の中心となる訪問看護師を確保することは可能であろう。
次に,地域のホームドクターとして,まずは在宅医療を中心とする医師に声をかけてみるべきである。小児の受け入れをためらう場合でも,「年齢を超えた在宅医療としての共通点が多い」ことを理解してもらう必要がある。
もし,地域にこうした医師がいない場合,近隣の小児科や内科の医師にホームドクターとして関わってもらう方法もある。病院の専門医へ連絡する上でも,ホームドクターを通すことで,よりスムーズな受診ができる。また日ごろの小さな健康問題を相談する際に気軽に相談できるという利点もある。

行政のキーパーソンを決ぬる

 次に,行政のキーパーソンを決めておくことが重要である。例えば,市町村の保健師や障害者福祉センターなどの相談員のうち,やる気がある人を見つける。行政関連機関の中にキーバーソンとなる人がいることは,日ごろの福祉を相談するうえで有用であることはもちろん,ケアマネジメントの中心となってもらうこともできる。

●レスパイト受け入れが可能な施設を探す
さらに,在宅移行前にレスパイトケアに対応できる施設を確保しておくことも重要である。しかし,地域によって重症の小児に対応できる施設が限られているところも多く,退院前に病院のMSWや行政のキーバーソンと十分に検討する必要がある。

●情報収集とネットワークづくり
また,情報源として,地域のケア会議や在宅ケア関連フオーラムヘの参加も重要である。地域の「福祉フオーラム」や「患者の親の会」などに参加することで,近隣地域のインフオーマルなサービスの情報を手に入れることもできるうえ,すでに訪問看護を受けている思児の現状を把握する上でも役立つ。
例えば,人工呼吸器をつけた子どもの親の会「バクバクの会」をはじめとした,「難病の子どもをもつ親の会ネットワーク」などの組織があり,定期的な全国集会や地域フオーラムが行なわれている。こうした会にもぜひ積極的に参加していただきたい。

 前例を作ろう

 とかく行政のサービスやレスパイトケア,訪問入浴などを利用する際には,「前例がないので対応できない」という反応が多い。「前例がない」ではいつまでたっても子どもたちの在宅療養の社会的環境は改善しない。
まずは,「この子を通して前例を作る」ということが最重要である。1例目はいろいろと苦労があるかもしれないが,その子の今後,さらに次の子どもたちのためにも,ぜひ,地域における「前列を作る」ことを心がけていただきたい。
さらに,「近隣地域の情報を得ること」は,前例作りの上でも重要となる。「隣の市(学校)ではOKなんですよ。なぜ,この市(学枚)ではダメなのですか」といった説得は有効である。近隣はもちろん,全国の小児在宅医療の動向を積極的につかんでいくことは,訪問看護のレベルアップはもちろん,患児や親のためにも有利となる。

 医療法人アスムスの活動

2年間に7人の小児が在宅へ

 私たちは,1992年から訪問診療を中心、とした活動を始め,高齢者を中心に約200人の患者さんの定期的訪問診療を行なっているが,その中に現在9人の小児患者がいる。初めの2人は9年前と4年前に訪問開始となったが,近年,急激に小児の利用者が増え始め,最近2年間に7人が在宅へ移行した。このことからも,小児在宅医療の必要性が急激に増加していることがわかる。

患児の疾患は多彩であるが,9人全員が気管切開を置いており,7人は人工呼吸器を装着しているほか,全員が経管栄養を行なっている。また,全員が大学病院に定期的な通院をしており,大病院の専門医(病院主治医)とホームドクター(在宅主治医)という2人主治医制である。そのため両者の間の医療連携が重要となっている。

整いつつあるシステム

 また,在宅での長期療養を行なう上で,レスパイトケアは重要であるが,当院のある栃木県では,数年前まで人工呼吸器を着けた重症在宅患児を受け入れるレスパイト施設は皆無であった。しかし,県内の在宅医・訪問看護師,多くの福社関係者や病院関係者,患児の親たちの連携により,わずか2,3年のうちに,こうしたシステムが急激にできつつある。
さらに,栃木市のように「福祉サポート」の中に,小児在宅医療への支援を明確に組み入れているところもあり(本号119頁参照),新たに在宅に移行する患児にとって,よりよい環境が整いつつある。

 訪問看護師への期待

 小児の在宅医療は今後急激に増加してくると考えられる。小児における在宅医療は,患児はもちろん,その親やきょうだいにとっても意義深く,こうしたニーズに答えることも訪問看護師の重要な任務であろう。
小児の在宅医療は,決して特別なものではなく,小児科経験の有無にかかわらず多くの訪問看護師にとって可能なものであり,もし,紹介があったときには躊躇なく受け入れていただきたい。
小児を受け入れることは,訪問看護の可能性を広げることのみならず,地域社会における訪問看護の地位を確立することにもつながる。今後,小児への訪問看護が全国に普及することを期待したい。

 (栃木県の小児在宅医療調査は,在宅医療助成勇美財団の助成を受けで行なった)

TOPへ  おやま城北クリニック  蔵の街診療所  街かどクリニック・世田谷  生きいき診療所  生きいき倶楽部  訪問看護おやま  ケアセンター 居宅生きいき ケア研究所 RISTEX 理事長の部屋  最新情報  アスムス概