在宅におけるPEG施行患者の問題点
胃瘻とはよりよく生きるために選択する医療

医療法人アスムス
おやま城北クリニック
吉野浩之
  経皮内視鏡的胃痩造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy;
PEG)は,近年,急速に普及が進んでいる。これまで経管栄養法の主流であった経鼻胃管に比べ,PEGは長期の栄養管理が可能であり,誤嚥性肺炎などの合併症が少ない。また,実施後の経口摂取も可能で,患者のQOL向上に大きく寄与できるなどのメリットがあり,在宅医療においてもその意義が大きく評価されている。しかし一方で,急速な普及ゆえにケアや管理についての課題や問題点も少なくない。ここでは,在宅におけるPEG管理に詳しい医療法人アスムスおやま城北クリニックの吉野浩之氏に,在宅におけるPEGの問題点について聞いた。

胃瘻をつくるという目的が理解されていないケースもある
  1980年に米国で開発されたPEGは,日本において90年代から徐々に導入され,95年ごろから急速に普及を始めた。普及の要因にはさまざま点が考えられるが,その1つにPEGの造設が,内視鏡的処置のなかでも比較的容易に行えるという点がある。
  しかしここで,吉野氏は「PEGや胃瘻について正しい知識を持っている人は,医師のなかでも少ないのではないか」と指摘する。同氏によると,1つの事例として次のようなケースがあったという。ある病院の内視鏡専門医に胃痩造設を依頼したところ,それを拒否されてしまった。その理由というのが,「誤嚥の危険性が高いので内視鏡による処置はできない」というものだったという。
  「確かに教科書的には,誤嚥がある患者さんでは,内視鏡上の処置は要注意となります。しかし,誤嚥があるからこそ,胃痩を造設する必要があるわけです。つまり,根本的に胃痩を造設する目的が理解されていなかったのです」
  PEGの適応は,経腸栄養のルートとしての胃痩造設や,誤嚥性肺炎を繰り返す例である(表1)。こうした大前提ですら,理解されていないケースもあるということだ。
  さらに同氏は,PEG管理に用いるキツトが日進月歩で進歩しているなか,胃痩造設を手がけている医師でさえ,こうした器具の進歩に対応しきれていないときがあると指摘する。
「在宅という視点から見ると,主治医が造設医をどう選択するのかという
点も考えなければなりません。例えば,PEGドクターズネットワークのように,専門的に自信を持って取り組んでいらっしゃる先生方もいるわけです。そういうことを情報として捉えていかなければならない。しかし,実際には肺炎などの入院を契機に胃痩を造設するといったケースが少なくありません。ですから,在宅の主治医も十分に胃瘻についての知識を持ち,在宅の視点から造設医に積極的に要望を出していかなければならないと思います」

胃瘻とは追い詰められてから
仕方なくつくるものではない
  それでは在宅医療という視点から,胃痩をつくる目的とは何なのか。吉野氏は次のように語る。
「胃痩とは追い詰められてから仕方なくつくるのではなくて,積極的に生きるためにつくるものです。口から食べられなくなったから,胃痩から栄養を入れるというものではありません。むしろ食べられなくなることが予測されるのであれば,そこで胃痩をつくってもよいのではないかと思います。それにより,口から食べる楽しみを残しておいて,食べられないものだけを胃瘻から入れればよいのです」
  食べるという楽しみを残しておいて,必要な栄養を胃瘻から補うことで,衰弱を防ぐことができる。胃痩は衰弱しきってから行うものではないという点を同氏は強調する。
  さらに同氏は,こうした胃痩本来の目的という点で,小児に対する胃瘻造設についても,関係者の理解不足があると語る。現在,同院では定期的に訪問診療を行っているおよそ120人の患者のうち,約8人に1人が経管栄養を行っている。このうち成人では1人を除きすべての成人が胃痩となっているが,小児では,7人中4人が胃痩で,3人は経鼻胃管である(表2)。
「成人の患者さんについては外科の先生が積極的に胃痩造設を行ってくれるのですが,小児科では胃痩という選択をためらう医師が少なくありません。胃瘻は,その初期において小児の先天性食道閉鎖症に対して行われていたもので,これが成人の経管栄養の手段として普及していったものです。しかし現状では,特殊なケース以外の小児患者に積極的に胃痩をつくろうという小児科医は少ないのです。私は,むしろ小児にこそ胃瘻が重要だと考えています(表3)」
  急激に進む高齢化のなかで,在宅医療というとイコール高齢者というイメージに傾きがちだが,本来,在宅医療に年齢の垣根はない。同様に胃痩という経管栄養法についても,ともすると高齢者のための経管栄養という先入観を抱きがちだ。しかし,人間の生活・成長に対しての栄養の重要性,また,長期にわたる栄養管理という点で,小児患者にこそ胃瘻が重要という同氏の指摘は,あらためて注目する必要があるだろう。

在宅という視点の有無で
器具の選択も変わる
  胃痩を適切に管理していくためには,造設医,患者,家族,看護師・主治医と,それぞれの視点を統合していくことが重要である。しかし,これまで普及が優先されてきたことから,つくる側の観点が優先され,使う人やケアする人の見方,言い換えれば在宅医療の視点が欠けていたとの指摘がある。この点について,吉野氏は次のように語る。
「例えば,胃痩のカテーテルには,バンパータイプとバルーンタイプがあります。バルーンタイプの場合,胃壁側のバルーン内の蒸留水が自然に抜けて,事故抜去が起きやすくなります。実際に,夜中に事故抜去が発生し,翌朝,栄養剤を注入しようとして発見されるケースがよくあります。おもに家族がケアする在宅では,病棟のように看護師が定期的に観察しているわけではありませんし,その場ですぐ処置ができませんので,抜けやすいカテーテルは避けるべきです。バンパータイプで事故抜去がないわけではありませんが,バンパータイプのほうが在宅患者さんに向いています。医師がキットを選択する際に,このような点を想像することが重要なのではないでしょうか」
  在宅という療養環境では,患者は自身のADL,あるいは家庭の介護力によって,入浴,排泄,移動など,さまざまな生活行動を行う。そうしたなかで,どのような器具がより適切なのか。ボタン型かチューブ型か,バンパータイプかバルーンタイプかなど,キットの選択1つとっても,そこに在宅の視点があるかないかで,造設後の患者のQOLは大きく異なってくるだろう。
  さらに,高齢者の場合には,認知症の問題がある。その程度によっては,事故抜去などが高い頻度で想定される。こうした点を,造設を行う側の医師がどれだけ理解しているのかという点も大きな問題だと言えるだろう。

患者や介護を担う家族を
支えていく体制づくりも課題
  近年,PEGの普及に伴い,一部では日帰り手術でPEGを行う医療施設もあるという。こうしたケースではもちろん,一般的な患者教育も含めた1週間程度の入院による胃痩造設においても,長期的な栄養管理という胃痩の性質上,つくる側とケアする側の連携が重要になってくるが,現実には適切な連携が取れているのだろうか。吉野氏は次のように語る。
「まず,日帰り手術に関してですが,実施している施設はまだ少数でしょう。通常は教育期間も含めて1週間というのが一般的です。もし日帰りでやるというのであれば,実施した病院で以後の教育や管理を責任を持って行う,あるいは手技のトレーニングも含めて在宅の主治医や訪問看護師にすべて預ける形の,いずれかを選択すべきだと思います」
  いずれにしても,在宅で主治医や訪問看護師がしっかり医療的管理をしている環境ならば,造設とそれにかかわる合併症などの説明は専門医が病院で行い,それ以外は在宅の関係者に任す形がよいのではないか,と同氏は語る。「しかし現実には,教育も含めた1週間の入院を終えて在宅に戻ってきても,在宅で介護を担う方が高齢であったり,理解カが十分でなかったりということが少なくなく,不安を抱えながら行っているケースが見られます。訪問看護師がそれを引き継いで指導していける場合はよいですが,そうでないような場合は,かなり介護者は不安になるのではないでしょうか」
  胃痩の管理は長期にわたるものだけに,造設医,造設後のケアを担う家族,それを支える訪問看護師や主治医のそれぞれが,患者の病状や生活環境など幅広い情報を共有し,連携して支えていく必要がある。こうした体制を個別にどう構築していくのかも,胃痩ケアの大きな課題だろう。

PEG普及のために必要な
よりよく生きる医療という視点
  以上のように,PEGを取り巻く現状には,医療関係者に対する正しい知識の啓発,在宅という視点の強化,ケアを支える体制など数多くの課題がある。しかし,それでもPEGが近年,急速に普及してきた背景には,全人的な栄養療法の手段として,胃痩が患者のQOL向上に大きく貢献できる可能性を持っているからであると言えるだろう。
  こうした意味で吉野氏は,まとめとして在宅医療の視点から,PEGの意義を次のように語ってくれた。
「胃痩とは患者さんの生活を助けるためのものであり,末期の何もできなくなってしまった患者さんを生かすためのものではありません。仮に“生きる医療”と“生かす医療”があるとすれば,生かすために胃痩をつくろうとするのは,後ろ向きの医療ではないでしょうか。医療関係者もケアをする人も,患者さんがよりよく“生きるための医療”として胃痩を使うのだとの考えになれば,さらに普及するのではないかと思います」。

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