GPnet 1999.8

介護保険下の在宅医療

在宅療養ニーズを吸い上げ、
介護・医療区分は今後も見直しを
筆者らの医療施設は、平成4年4月に在宅医療の推進を目的に開設された無床診療所を核としている。開設当初より複数の医師による訪問診療、訪問専従の看護婦による訪問看護、理学療法士による訪問リハビリテーションを行い、平成6年より薬剤師による訪問服薬指導、平成10年より管理栄養士による訪問栄養指導を開始した。さらに、デイ・ケアやショートステイを行う老人保健施設を運営し、制度上可能な在宅医療サービスはすべて網羅して行っている。
  平成4年からの7年間に、ターミナルケアも含め約300症例の在宅療養の支援を行い、現在90症例が在宅医療の対象となっている。
  対象患者の年齢は15歳から96歳に及び、疾患も神経筋難病(筋ジストロフィー・多発性硬化症・ミオパチー等)やがん末期、若年者の脊髄損傷、脳挫傷、脳性麻痺など多彩である。単に高齢者の脳血管障害後遺症や痴呆だけが在宅の対象ではない。
  これらの患者を診てきた経験から、現在想定されている介護保険と医療保険の区分を中心に、介護保険により現場にどのような影響があるか、私見を述べてみたい。在宅の22%は介護保険適用外
8%は自立が要支援の見込み 在宅医療は、支援する医療施設のコ・メディカルスタッフの陣容や医師の専門性などによって、その適応は異なるが、どれほど医療支援体制が万全でも、介護力が乏しいと在宅医療の継続は困難となる。逆に介護力が十分であるとがん末期でも、人工呼吸器を装着した状態でも、在宅療養は問題なく継続できる。
  すなわち、在宅医療の継続は、疾患の重症度でなく、介護力や療養環境など患者を取り巻く社会的因子によって左右される。これは在宅医療に真剣に取り組んでいる医師らの一致した見解で、この介護力や療養環境を社会的に補完しようという介護保険制度には大きな期待がもてる。
  ただし、訪問着護や訪問リハビリテーションが介護保険下のサービスと位置づけられ、利用者には年齢制限まであることには大きな問題を感じざるを得ない。
  結論を最初に述べると、すでに当院の訪問着護サービスを受けている患者の22%は、介護保険の開始時に65歳末満で、40歳以上であっても特定疾病に該当せず、介護保険のサービスを利用できない。また、65歳以上で、医師が訪問看護を必要であると判断しても、約8%の症例では要介護の認定が受けられない可能性が高い。要介護認定で訪問看護の適用
を区分するのは妥当か 現在、訪問着護サービスについては医療保険と介護保険で次のように区分する案が挙げられている。
■介護保険
  ○要介護者等に対する訪問看護
■医療保険
  ○要介護者以外の者に対する訪問看護
  ○要介護者等に対する訪問着護のうち、急性
  増悪時の訪問看護
  神経難病、がん末期等に対する訪問看護
  (表1)
  ○精神科訪問看護
  この区分案では、要介護と認定される否かで、患者は介護保険と医療保険に振り分けられることになる。利用者は要介護と認定されれば、急性増悪や難病、がん末期等、頻回な訪問看護が必要な場合を除き、介護保険の訪問看護、訪問リハビリテーションを受けることになる。
  筆者は、このような区分には反対である。訪問看護や訪問リハビリはいうまでもなく医療であり、医師の指示に基づいて行われるものである。医療の必要性は医師が判断し、医療は医師の責任で提供されてきた。したがって要介護認定の有無にかかわらず、医療保険により提供されることに不合理はないはずである。ところが、要介護認定という手続きを経なければ、居宅支給限度額の枠内では訪問看護は利用できないことになった。
  また、在宅ホスピスケアの例では、もし65歳に満たなければ、特定疾病を持つ者でない限り介護保険のサービスを利用できない。65歳以上であったとしても、要介護度は日に日に変化する。要介護認定の訪問調査期間に亡くなってしまう事態も起きるだろう。また、要介護と認定されたとしても、医療保険による訪問看護を受けたほうがかえって療療費が安くなることも考えられる。本来、最も介護力を必要としている患者に介護サービスが提供されにくくなるという事態をどう考えたらいいのだろうか、理解に苦しむところである。
  このように、介護が必要でも介護保険が利用できないケースについて、自院での経験例を挙げてみる。介護が必要でも
介護保険が利用できないケース(1)気管切開後の在宅酸素療法適用患者 気管切開を行って在宅酸素療法を受けている症例では、気管カニューレの管理や肺合併症の予防など、頻回の訪問看護や訪問診療が必要で、医療依存度が高いと判断される。しかし、酸素さえ吸入できれば、日常生活はほとんど自立しており、携帯用のボンベがあれば外出することもできる。
  この例は、日常生活が自立しており、要介護認定が受けられないと予想されるが、医療保険で十分、在宅療養支援ができる。しかし、外出時のガイドヘルプを望んでも、あるいは在宅での入浴サービスを希望しても、介護保険が利用でさなければ、福祉サービスを受けられない可能性が大きい。この症例のように医療の依存度が高く介護の依存度が低い場合でも、必要な介護サービスは受けられるべきでないだろうか。
(2)脳性麻痺による痙性的肢麻痺
  脳性麻痺による痙性四肢麻痺で、日常生活全面的介助の症例では医療より介護が必要である。特に、65歳末満の若い患者は慢性疾患の合併は少なく、障害を除けば元気なことが多い。本当に必要なのは介護であるが、介護保険は利用できない。
(3)脊髄損傷
  脊髄損傷などの外傷は、介護力さえ十分であれば、在宅で自立生活が可能となる症例が多いのだが、この制度は先天性疾患や外傷による65歳末満の障害者にはまったく無意味となってしまった。
  厚生省は障害者については障害者プランなど、異なる制度でサービスを整備しているというが、そのような制度的な理由で、65歳の誕生日からサービス内容が激変してもいいのだろうか。特定疾病の範囲はやはり納得できない
  40歳から65歳末満(第2号被保険者)の場合は、障害の原疾患が下記の特定疾病とよばれる15疾患にあてはまれば介護保険のサービスが利用できる。
初老期痴呆、脳血管疾患、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、シャイ・ドレーガー症候群、糖尿病性腎症・網膜症・神経障害、閉塞性動脈硬化症、慢性閉塞性肺疾患、変型性関節症、慢性関節リュウマチ、後縦靱帯骨化症、脊柱管狭窄症、骨粗鬆症、早老症
  以上の15疾病のみが介護保健の認定要件となったが、一体その根拠は何なのかと、大いに疑問を感じざるを得ない。
  たとえば糖尿病の合併症では、常識的にも介護より医療が優先されそうである。一方、進行性筋ジストロフィーは医療より介護が必要なはずだ。それにもかかわらず、糖尿病の合併症は介護保険対象となり筋ジストロフイーは対象外である。もし患者数の多さがその根拠だとすれば、見当違いも甚だしいと思う。
  治癒することなく、生涯残存するから障害であり、障害をもった場合には、何らかの介護が必要である。この根底的な事実を軽視すべきではない。
  国民全体で支える公的保険で、原因疾患にのみ着目して利用者を限定すれば、あらかじめサービスを利用できないと分かっている疾患患者にまで、保険料支払いの義務を押しつけることになる。これで果たして国民の納得が得られるのであろうか。医療依存度高く自立のケース
でも、通所ケアは必要 在宅療養を継続するには、介護者を疲労させないことが重要である。そのために、デイ・ケアやショートステイはレスパイトケアとしても効果的である。しかし、介護保険施行後は、利用できる患者とできない患者が生じるため、いかに利用者に使ってもらうか、サービス提供者側にも悩ましい問題である。
  たとえば医療依存度の高い患者は、デイ・ケア(通所リハビリテーション)を希望しても要介護と認定されていないと利用できない。ショートステイ(短期入所生活介護や短期入所療養介護)も同様である。
  一方、デイサービス(通所介護)は、要介護と認定を受けた高齢者でも、医療依存度が高いと介護保険では医療的処置ができないとの理由で利用できない可能性がある。
  また、65歳未満でも訪問入浴サービスが必要なこともある。頭部外傷に基づく脳出血で、痙性不全四肢麻痺、胃痩、気管切開等の処置がなされている在宅療養の例では、年齢が65歳に満たないという理由で介護保険のサービスが利用できない。このケースは体位変換時の血圧の変動が激しく、医師の管理下での入浴が望ましい。この場合、一体どのサービスを利用すればよいのだろうか。
  介護保険では、老人デイ・ケアが「通所リハビリテーション」という名称に変わるが、こうしたケースこそ本来的に「通所リハビリテーション」が必要な患者である。在宅療養に意欲のある患者には
介護サービスを利用できる余地を 介護保険制度の基本的な理念には、社会的入院を是正し、在宅療養にシフトさせ、医療費を削減し、一方、療養者の立場からは生活の質を高めることなどが掲げられている。しかし、実際には在宅療養の対象者は、介護保険で想定されている疾患を持つ要介護者だけではない。
  前述したように、在宅療養を妨げている最大の要因は、介護力や在宅の療養環境が十分に整備されていないことにある。筆者としては、在宅の医療支援については、現在の医療保険制度の枠内でサービスを提供していくうえで大きな問題を感じていない。
  むしろ、介護保険のなかに訪問看護が包括され、看護と介護の概念が曖昧になってしまったことに大きな問題を感じている。医療的処置から洗濯等の日常生活関連介助までも同じ保険制度から給付されることとなり、医療保険と介護保険の棲み分けをきわめて複雑化してしまった。根幹の部分で医療と介護の区分が曖昧となっているのに、細部で制度の整合性を図ろうとするため、今まで述べたように、実際の現場にさまざまな問題をもらたす制度となるのではないか。
  同じ医療行為が、医療と介護ニつの保険制度から給付される。介護力さえあれば在宅で療養でさる患者でも、要支援、要介護と認定されなければ介護保険を利用でさず、医療保険の適用になる。こうしたケースでは、結局、医療が福祉の肩代わりをする構図は改革されないのではないかという予感をもっている。
  在宅療養ではいうまでもなく、患者に在宅で生活する意思があるかないかが重要である。在宅での療養に意思のある患者に介護保険が利用できる余地を残しておかなければ、施設療養から在宅療養へ移行させるのは難しい。
  介護保険を在宅療養重視の制度として機能させるのは容易ではない。いくら在宅介護メニューが豊富でも、患者や家族自身にその意思がなければ、在宅療養は破綻するからである。介護保険は在宅療養患者
の福音になるか? 医療と福祉という、起源もその歴史も、発展の過程もまったく異なるこつのサービスが、有機的に連携し始め、その垣根は取り払われようとしている。在宅福祉の底流を、医療で裏打ちして初めて質の高い在宅ケアが可能となる。介護保険制度の創設はその第一歩といえるが、在宅医療の現実を見据え、すでに在宅医療を受けている患者さんたちのことを考えると、この制度が果たして福音となるのか、との疑問を禁じ得ない。
  中心となるべき視点はクライアントの利益である。公的な保険制度である以上、介護が必要になったら誰でもいつでもどこにいても利用でさる制度であるべさだと思っている。しかし、現在のところ、当院の患者やその家族で、要介護認定という複雑な手続さを経て、介護保険を利用でさるかどうかが決まることについて、正しく理解している方は少ない。このような現状を考えると、来年4月の大混乱は避けられないと思うが、せめて在宅医療サービスの質が低下しないよう頑張っていきたいと思っている。
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