婦人公論保存版『介護読本』10/15号別冊に掲載

出前医療全国ネットワーク
栃木県小山市、JR小山駅から車で10分ほど走ると、新興の住宅街が広がっています。その町並みのなかの、一般の戸建て住宅と変わらない小さな診療所が「おやま城北クリニック」です。待合室は10人も座ればいっぱいという、こぢんまりとしたものです。
1日、30人近くの患者さんが診察を受けにやっ てくるそうですが、この診療所の本当の役割は、ここを拠点にした在宅医療です。
このクリニックとともに、隣町の結城市で「生きいき倶楽部」という老人保健施設などを運営する医療法人喜望会を経営する医師・太田秀樹理事長は、「施設から在宅へと、療養する場所が変化し、在宅介護の重要性が高まつています。介護保険が始まると、その傾向は一段と強くなるでしょう。おそらく、 医療に求められるのは、介護サービスとの一体化ですよね。
医師、看護婦が、病院や診療所にとどまっ て、患者さんがやってくるのを待っているようではだめだと思います。患者さんの近くに、介護サービ スや医療が集まるべきで、その方法として、訪問診療を重要視する診療所があってもいいのでは、と思 ったわけです。
訪問診療とは、病院での回診のようなもので、ベッドが家庭にあると思ってくだ さい。家庭に届けるので、出前医療ということなんですね」と説明してくれました。
太田医師を中心に、数名の医師で訪問診療を行なっている患者さんは100人を超えています。急を要する人でなければ月に2回から3回、重症の患者さんのところへは、毎日でも出かけるそうです。「週に2、3回顔を出している看護婦は家族の一員、たまに訪ねていく医師は、見舞いにやってくる親類程度、といった感覚です」という太田先生。
訪問診療のときには、白衣も着ません。ジーンズにTシャツ姿で、まるで自分の家に帰るような感じで、患者さんの家に入っていきます。「こんにちは、どうですか、調子は。寝かせきりにしないで、起こしてあげてね」と、いきなり家族へ の注文が口をついてでてきます。毎日、介護している家族が、どれほど疲れているかを承知の上で、患者さんの立場を優先させます。「小言をひとことふたこといわれると、逆に元気が出てくる。先生が来てくれるだけで、ほっとするんですよ」と家族の信頼も高いようです。
ところで、こうした訪問診療を受けると、どれくらいの費用がかかるのか、気になるものですが、人工呼吸器を使用するなど特別な医療でなければ、1カ月で1万円を超えることありません。診療費は医療保険で決められた額ですから、月に2500円程度で、これに訪問にかかる交通費の実費が加算されます。太田医師のところでは、1キロメートルにつき100円換算で計算しているそうですが、大半の訪問先が、3、4キロメートルの範囲に集中しているので、交通費は、l回につき600円から800円だそうです。医師と看護婦の訪問は月10回受けたとしても、交通費は6000円から8000円ということになります。これに基本の診療費、ガーゼ交換などにかかる実費を含めても、1万円程度で収まります。
しかし、こうした訪問診療を実施している診療所が、どこにでもあるわけではありません。多くの人が、自分たちの暮らしている周辺には訪問診療を行なっている診療所がないと、あきらめてしまつているようです。でも、状況は少しずつ改善されています。太田先生と同じような考え方を持った医師たちが、「在宅ケアを支える診療所全国ネットワーク」という組織を作って活動を続けています。ここでご紹介する病院、診療所リストもこの組織からリストアップしたものです。あきらめないで、訪問診療をしてくれる医師を捜してみてください。
ただし、訪問診療に何を求めるかは、介護者の側でしっかり理解しておく必要があります。どんな医療の助けを借りて要介護者を支えていくのか、明確にしておかなければなりません。「末期ガンの集中治療や移植手術をするわけではありません。高齢になればなるほど、あえて手術をするよリは、しないほうが長生きできるケースも増えてきます。痛みを抑えて、苦痛から解放する。そのために精一杯の治療をするのが、在宅医療の基本的なスタンスであることを知っておいてほしいですね。患者さんには、住み慣れた家で、療養生活を楽しんでもらう。家族には、患者さんの療養生活を支えていこうとする意志を持っていただく。この二つがかみあってはじめて、在宅医療の成果を期待することができるのです」つまり、太田医師は、単なる病気治療を訪問診療に求めるのではなくて、ケアを続けていくという立場で医療とつきあっていってほしい、と指摘しているのだと思います。「暮らしの中に医療を取り込むことです。在宅介護を一緒に支えてくれるパートナーのような医師は、必ず見つかりますから」と、励ましてくれました。
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