MEDi.magazine 02 2004.SUMMER
臨床研修協力施設で育てる!

現場の体験が研修の基本。
在宅医療のすべてを見せたい

 栃木県小山市内、および近隣に3つの診療所、介護老人保健施設、訪問看護ステーション(2カ所)、ヘルパーステーションなどを持ち、これらを拠点に、周辺事業所と連携して在宅医療に取り組んでいる医療法人アスムス。法人名の「アスムス」とは、「Activities Supporting Medicine:Systematic Services(A.S.M.ss)」を意味する。同法人の理念でもある「活動を支える医療の実践」を明確に打ち出し、よりよいサービスを提供していく意味で、2003年、「喜望会」から「アスムス」に名称変更した。
病気や障害を抱えた人たちが、自分のしたいことをしながら地域でいきいきと暮らすためにはどんなサポートが必要か―――。医療・福祉サービスを受ける人々を中心に据え、こうした視点を持って様々な職種が連携して患者の生活を支えるのがアスムスのやり方だ。
「在宅医療」や「訪問看護」が、一般にはほとんどなじみのなかった1992年に、「在宅医療」を旗印に小さな診療所を開設。以来、地域のニーズに応える形で人員や施設を増強。手厚い医療・福祉サービスを提供し続けている太田秀樹理事長は言う。「日本の医療技術は非常に進歩してきています。しかし、残念ながら現代の医療では治すことのできない病気や障害がまだまだたくさん存在します。従来の医療には、こうした治らないものにどう対処していくかという視点が明らかに抜け落ちていました。私が取り組んできたのはこの部分です。患者さんの活動を支えるために、医師の方から出向いていく“動く医療”を実践してきました」
こうした取り組みを、若い医師の育成や在宅医療の発展に活かしたいと、同法人は自治医科大学の協力施設となった。研修プログラムのなかの「地域保健・医療」の部門で、研修医を受け入れることになっている。
同法人が医師の育成に取り組むのは、今回の臨床研修制度改正に伴う研修が初めてではない。すでに7年ほど前から、研修希望者には広く門戸を開き、これまでに約20名を受け入れてきた。今回協力関係を結んだ自治医科大学の学生の研修先としての実績もある。そうした学生から大学を退官して新しい組織を立ち上げるというベテラン医師まで、受け入れた研修医(生)は、年齢も経験も幅広い。また研修期間も、数日程度から研修と仕事を兼ねて長期にわたって滞在した人まで様々だ。
2002年には、全国の医師会に先駆けて栃木県医師会が単独で取り組んだ医師の臨床研修で、約1カ月、1人の研修医の指導を担当した。
太田理事長はそのつど柔軟に対応したが、多くの研修医(生)に共通して指示したのは、研修の始まる前に医療法人アスムスのホームページを見たり、太田理事長の著書、推薦図書を読んで予備知識を身につけておくことだ。
「なじみのない医療ですから、初めに総論を理解し、その人なりに在宅医療をイメージしておいてもらわなければ始まりません。そのうえで、在宅医療を学んでみたいと思ってくれた人に来てもらうと、各論を教えやすいですね」と太田理事長。今回の研修でも、・在宅医療の槻念やアスムスの理念などを事前に理解してもらい、それを前提に、効率的に現場での研修を進めたいと考えている。
自治医科大学整形外科医局の医局長だった経歴のある太田理事長は、学生の指導経験も豊富だ。開業後も在宅患者のデータを分析し、学会発表を行うなど研究も続けてきた。また、介護保険制度をはじめ、医療・福祉に関連する社会制度にもくわしい。
「町の診療所の機能はそれぞれですが、研修医の教育機関として機能するためには、診療に加えて研究機関としての要素が必要です。また、指導する医師に制度に関する知識がなければ医療は教えられません。当法人にはそうした機能がそろっています。グループ内の様々な施設に多様な人材がいることも、役に立つと思っています」と、太田理事長は自らの法人を、新医師臨床研修制度に照らして分析する。
ただ、これまでの経験から、大学で医学を教えることと、地域で医療を教えることには大きな違いがあると感じているのは確かだ。診療所医療をはじめ地域での医療は、医師以外の様々な職種がチームを組んで行われる。患者の生活や家族的背景を理解したうえで、チームワークをとって行わなければうまくいかない。研修医個人のコミュニケーション能力に左右される部分も多い。「これからは、必ずしも在宅医療に興味のない研修医を教えることにもなるでしょう。そういった人にどう教えるかは、今後の大きな課題です」
今のところ、研修の協力施設が研修医を選ぶ権限やシステムはない。そんななかで有意義な研修を行うためにどうすればよいか、現在模索しているという。
「地域保健・医療といっても幅広いのですが、私が責任を持って伝えることができるのは在宅医療です。研修生には在宅医療の現場をできる限り体験し、患者の生活を支える医療の存在を知ってもらいたい。これまで培ってきた在宅医療のノウハウを、惜しみなく提供したいと思っています」と、地域医療研修への意欲を語る太田理事長。栃木県医師会の研修医を受け入れた際に独自に作成した「保健・医療、緩和・終末期ケア・在宅医療臨床研修プログラム」(34ページ参照)を基本に、研修医を指導する意向だ。
同法人の研修プログラムの特徴は、OJT(On the Job Training)を重視していること。
「OJTといっても新米医師にいきなり患者さんを診察させるわけにはいきません。ですから、現場体験が主となります。医師だけでなく、看護師、理学療法士、ヘルパーなどとともに在宅の現場に同行し、ベテランの仕事を通して、在宅医療を体験的に学んでほしいと思っています」
太田理事長の作成したこの研修プログラム案については、5年程度の臨床経験がある医師が在宅の専門家になることを目的に受けるような内容である。つまり、医師免許を取り立ての医師に行う研修としては内容が高度過ぎるという意見も寄せられているという。
これに対し太田理事長は、「指導する以上は在宅医療のすべてを最高の形で見せたい。在宅医療については、ほとんどの研修医が初めて触れるはずですから、まずは、質の高い、高度な在宅医療をその目で見て、感じてもらうことが大事だと思っています」と研修プログラムの趣旨を説明する。
在宅医療をマスターし、さらに教えることができるほどの力量を身につけるにはかなりの年月が必要。短い研修期間にできることは、入門の段階として、本物の在宅医療に触れることではないかと力説する。
太田理事長は、わずか1カ月、長くて3カ月程度の期間では、在宅医療の全体を学ぶためには不十分という。急性期の病院では、患者の容体の変化が比較的短期間に体験できる。一方、在宅の現場では、1カ月間、ほとんど変化のない患者も多いというのがその理由だ。在宅医療の重要な要素である患者の終末期や看取りの時期もぜひ体験してほしいと考えている太田理事長は、「在宅に限っては、1カ月間毎日というより、週1回でもいいから1年くらいの研修期間をとるのが妥当ではないでしょうか」と指摘する。
こうした考えから、すでに数年前から在宅医療に取り組む医師仲間のネットワークで研修医を受け入れ、全国各地の診療所で、地域性まで踏まえた在宅医療を学べるシステムづくりを進めている。法的な問題がクリアされたら、ぜひ、早い段階でこのプロジェクトをスタートさせたい考えだ。「在宅医療に取り組んでいる医師自体がまだまだ少ないなかで、在宅医療も含めた地域保健・医療の研修が、国の政策として動き出しました。長く在宅医療に従事してきた医師の立場としては、少しでも早く研修のあるべき姿を示す責務があると感じていますと、思いを語る。
課題が山積しているとはいわれるものの、「これからの日本の医療を変えるのは、教育機能を持った地域の診療所かもしれない」と、今回の制度改正に大きな期待を寄せる太田理事長。地域医療を担う若い医師を育てるために、力を尽くしたいという。

 ●研修医が語る「地域医療研修」
学生時代に医療法人アスムスで研修を行った荒井康之医師に話を聞いた。
荒井医師は自治医科大学出身。大学時代から積極的に地域医療研修に出かけている。
―――地域医療研修を受けようと思った動機は?
荒井 医師を志したとき、最初に「体のことで困ったらとりあえず荒井のところに相談しに行ってみよう」と思われる医師になりたいと思いました。また、治らない疾患との付き合いを手伝いたいとも思いました。それならば「医学的」なことばかりでなく、「社会的」「心理的」なアプローチも必要です。そういうことを学べる場は、専門医療を行う大学病院だけでは必ずしも十分ではなく、かえって地域医療の現場だと思いました。いろいろな医療の形を見たい、いろいろな場所に行きたいという好奇心もありました。

―――医療法人アスムスで研修したきっかけは何ですか?
荒井 学生時代の実習の場所は基本的に大学病院で行われます。そして大学病院は、急性期の医療が主体ですから、退院した後や慢性疾患を持った患者さんの「家での生活」は見る機会がかなり少ないのです。大学病院での医療を見てきて、この方々は退院後、どんな生活をしているのか、しっかりと医療を受けられているのか、私たちにできることは何なのか知りたいと思っていました。
地域医療の実習先を選択する半年くらい前に、たまたま友人に誘われて太出先生の主宰する勉強会に参加したとき、先生から、「人生を変える研修にさせてみせるから、一度見に来いよ!」と言われました。ちょうど在宅医療を見てみたいと思っていたので、「ぜひ!」と実習をお願いしたのです。また、大学の先生からも、在宅医療を見たいなら太田先生のところがいいと勧められました。

―――実際に地域医療を経験して感じたことはどんなことですか。
荒井 自分がやりたいと思っていた医療の現場を見ることができたこと、そしてそれをやっぱり自分がやりたい医療だと確認できたことがよかったです。急性期の医療の「その後」を知り、そこでの患者さんたちへのアプローチを見ることで、それまで漠然としかイメージできなかった地域医療を具体的に考えられるようになりました。地域医療の研修をしたことで、急性期の医療にかかわるときも、そうした退院後や慢性期のことについても意識してかかわることができるように少しはなったのではないかと思います。
*  *  *
荒井医師は現在、急性期の病院で研修をしているが、「地域医療がやりたい」という気持ちは持ち続けており、休みを利用していくつかの医療施設を訪ね、勉強を続けているという。
太田理事長は、「荒井医師のように、地域医療がやりたいと思う医師が増え、そういう人がどんどん地域に出て来てくれれば在宅医療はますます発展すると思います」と語る。

●管理型病院からのメッセージ
「大病院ではできない研修を期待」
自治医科大学地域医療学講師 三瀬 順一
新人医師の柑修プログラムで、「地域保健・医療」を必修化した今回の臨床研修に対し、私は2つの期待を持っています。
まず1つは、大学病院や大病院ではない、地域の中小病院や町の診療所で働くことを積極的に選択する人が増えること。もう1つは、将来研究者や教育者になったとしても、地域医療の現場を知ったうえで高度医療の研究や教育に携わることができるようになるということです。

「プライマリ・ケア」の本当の意味

 新制度に関する文書を読んでみると、将来どのような道に進むにしても、必ず持っていなくてはいけない基本的臨床技能という意味で「プライマリ・ケア」という言葉を用いているようです。そして、その技能を身につけさせることが、今回の地域保健・医療研修の目的とされています。しかし、地域医療を推進してきた我々の立場でいうプライマリ・ケア医とは、患者さんのニーズに的確に応え、在宅も含めて地域の医療を責任を持って担える医師を意味します。
ぜひ、この2つの意味が混同されることなく議論が進み、地域保健・医療が、若い医師にとって1つの選択肢になっていってくれることを願っています。そのためにも、簡単な研修、たとえば保健所での血液検査などだけで終わるのではなく、実際に在宅医療の現場に出向くなど、直接患者さんとかかわりながら、そのニーズを拾い上げる感性を磨いてほしいと思います。
地域医療を行う医師の役割と、大学病院などで専門医として働く医師の役割は違います。研修によってこれらの違いを認識し、そのうえで進路を選択することが望ましいと思います。

地域に存在する優秀な指導医と連携

 自治医大では、従来から地域での実習を重視し、1年生のときからほぼ毎年地域実習を行う教育カリキュラムになっています。そんななかで、研修先を独自に発掘し、全国各地の様々な医療機関と連携してきました。「町の診療所の医師に研修医の指導ができるのか」と、地域医療を指導する医師の能力を疑問視する声もありますが、私の知る範囲だけでも、優れた教育機関となり得る診療所、優れた指導医は、地域のなかにたくさん存在します。そうした医師の集まりとして、「PCFM(プライマリ・ケア・ファミリー・メデイスン)ネット」があります。
医療法人アスムスの施設は、同ネットには参加されていませんが、太田医師は在宅医療の啓発活動にも熱心です。チーム医療など、在宅医療の現場を学ぶのにふさわしい施設ではないかと期待しています。

指導医をサポートするシステムも必要

 私はいま、指導医をサポートするネットワークづくりを考えています。自治医大の関連団体「地域社会振興財団」では、これまでにもいろいろな形でへき地の医師などに研修の場を提供してきました。その研修プログラムの1つとして、昨年から「地域保健・医療の指導者育成講習会」をスタートしました。全国から希望者を募り、現場での指導法や、文献検索の仕方など実戦的な内容で行います。臨床研修をより有意義なものにするために役立てていただきたいと思っています。
今回の研修制度には、研修先のレベルの遠いが大きい、研修の評価をどう行うかが明確でないなど課題もありますが、大学内という極めて限られた医療現場だけで行われていた研修を、地域にまで広げたという点で意義があると思います。
医師の能力を育てるのは、制度ではなく経験です。制度は経験を支えるものに過ぎません。医師に成り立ての、まだまだ柔軟な時期に医療の現場を幅広く体験し、患者さんと直接触れ合うことは、医師として成長するうえで、きっとよい経験になるでしょう。そして、研修医を指導した地域の医師にとっても、改めて医療を学ぶ機会となり、同時に診療所に活気をもたらす契機となるはずです。
今回の新医師臨床研修制度が、研修医と指導医双方にとってプラスになるように運用していくことが大切だと思います。

 資料 保健・医療、緩和・終末期ケア 在宅医療臨床研修プログラム(試案)
序 言
在宅医療は病院の入院医療、診療所の外来医療に続いて、第三の医療といわれている。特に2000年4用に施行された介譲保険制度によって、高齢者の在宅療養の重要性が強調されるに至り、在宅医療への理解なくして地域医療の実践が困難な時代が到来した。
在宅医療とは、医療が提供される場を示す言葉であるが、医師や看護師のいるところが、すなわち医療の場となるという認識が求められる。従来の往診医療と混同されて語られることが多いが、定期的往診、即ち訪問診療を基本とし、医療、福祉、行政、地域の産業などとネットワークしながらチームで、療養者の生活そのものを支えるという意識が大切である。即ち、我々医師にとっての地域医療とは、コミュニティー・ペイスド・ケアでなくてはならない。
21世紀のあるべき診療所医療の姿を、この研修で体得していただき、研修医のみなさんが、将来急性期医療にかかわる医師となった場合でも、適切な時期に、速やかに在宅医療へ移行できる治療プログラム作成ができる臨床医として育ってくれることを期待している。
1.在宅医療の姿を知る
◆訪問診療をとおして生活者として全人的にとらえる
・在宅で療養する対象者(虚弱高齢者、障害者、神経筋難病者、末期がん患者等)の生活を把握する
→住環境、家族、生活様式などを説明できる

・疾病を理解するだけでなく、健康状態の変化によって生じた身体運動機能の低下に基づく、さまざまな障害を正しく評価する
→生活障害について具体的に説明できる

・生命の質を重視した医療のありかたを学ぶ
→対象者の生命の質について適切な用語で説明できる

・生活者としてとらえたうえでの医療管理の技術を学ぶ(医療的管理とは、病状安定の継続を図るために、悪化や、合併症の発生を予防することが大きな目標となるが、同時に末期医療などにおいて緩和ケアを要求される場合、苦痛の除去を確実に行う技術も重要となる。しかし、ここでいう技術とは、施設内で習得したものを在宅医療に応用するスキルということになる)

◆疾病別の在宅医療の特殊性を学ぶ(これらの基本は施設内で学ぶ)
@ハイテク在宅を経鹸する(主として神経筋難病患者)
●経菅栄養(胃ろう)、尿道カテーテル管理、在宅酸素療法(人工呼吸器管理を含む)、中心静脈栄養(ポート管理を含む)などいわゆる八イテク機器を用いた在宅医療の姿を知る

 A高齢者の在宅医療を体験する
●障害や脱水、褥そうや痴呆、薬物の副作用など在宅虚弱高齢者が抱える、特有な病気について理解する
●急性疾患の合併時には、緊急往診を通じて、自宅において可能な限り、最善と考えられた補助的診断技術を用いて適切に診断、病態の評価を行い、患者、家族の意向を汲んで治療を行う。その治療を在宅で継続するのか、入院治療となるのか、適切な判断を下すことの重要性を学ぶ
G在宅ターミナルケアを体験する
●良好なコミュニケーションを通じて、患者・家族と信頼関係を構築し、濃かな医療を継続し、在宅での看取りにも積極的にかかわる
●患者の家族背景を理解し、介護者となる家族の抱える社会的問題へも配慮できる能力を身につける
2.在宅医療周辺の基礎知識(講義)
@社会資源を知る
●介譲保険制度の理念や具体的な内容を知る
●訪問看護師やその他の専門職種と有効な連携をもって在宅診療を行う重要性を認識する
●通所ケアサービスやショートステイの意義や目的を知る
●地域の産業(介護タクシー)や行政サービスメニューを知る
●NPO法人が行う在宅サービスや、その他市民のボランティアによるサービスなどの状況を知る。連携を行うための情報収集の方法なども知る
●チームケアを行うために、他の医療福祉専門職の業務内容を知る
A在宅医療の継続因子を知る
●介護力の評価―人的介護力(介護者)、テクノエイド(車イスなどの機機的介譲力)、環境要因(パリアフリーなど住宅改造)など分析して理解できる
●在宅ケアの限界を判断する―対象者の身体運動能力などいわゆる状態像だけでなく、家族背景や経済状況も勘案し、施設療養の適応が判断できる
G医療経済の理解
●在宅にかかわる診療報酬制度を理解する
3.その他 事類の作成
●主治医意見書、訪問看護指示書、その他診断書(身体障害者など)、鑑定書(成年後見制度)の適切な記載を学ぶ

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