Medical Tribune Home Care MEDICINE Vol.2
医療と介護のボーダーを超えた在宅医療専門誌

在宅医療“基本のき”


第7回 
在宅医療に必要な社会資源の知識と制度の理解

 生活のなかに医療を持ち込むのが在宅医療であり,
患者の日常生活をいかに支えるかが在宅医療の基本である。
したがって,介護保険をはじめとする制度はもちろん
医療とともに患者の生活を支える大きな力となっている福祉や産業についても,
医師は無関係ではいられない。
そこで,今月は在宅に携わる医師が理解しておきたい制度と,
社会資源の知識について解説する。
在宅悪者の7割を占める
高齢者のケアには
介護保険の知識が不可欠
在宅医療では,患者全体の7割程度を高齢者が占める。高齢者の医療は医療保険と介護保険の二刀流で支えられていることから,介護保険の知識は欠かすことができない。したがって制度面では,まず介護保険の知識を十分に得ておきたい。
介護保険で,まず忘れてはならないのが,介護保険を利用するには必ず介護度の認定の手続きが必要だということである。さらに認定には必ず「主治医の意見書」の提出が必要であり,この「主治医の意見書」が介護度やケアプランの内容に大きく影響してくる。
「主治医の意見書」において医師は,医学的な管理の観点から所見を述べるわけだが,ここでは診療の状況や,疾病の経過,障害の程度,点滴やカテーテルなどの医療処置の内容はもちろん,痴呆の程度や介護についてのアドバイスもが求められている。ケアプランを作成するうえで利用されることもあるので,必要な情報を医師の視点から述べることが求められているわけで,医療情報だけでなく生活情報も必要なのである。
次に,高齢者の訪問看護も介護保険制度施行後は,医療保険によるものと介護保険によるものに分かれて,大変複雑になったのできちんと理解しておきたい。
さらに,しっかりと整理しておきたいのが施設サービスである(図1)。介護保険における施設サービスは,介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム),介護老人保健施設(老人保健施設),介護療養型医療施設(療養型病床群,老人性痴呆疾患療養病棟,暫定的に介護力強化型病院)の3施設である。養護老人ホームは,特別養護老人ホームと名称はまぎらわしいが,介護保険の対象施設ではなく,行政管轄の措置制度を残した福祉施設である。要介護1以上と認定されれば特別養護老人ホームを利用できるが,要介護認定で要支援,非該当となった症例が養護老人ホームを利用することとなる(既に入所している人は,介護保険制度施行後5年間は,特例措置で特別養護老人ホームへの入所継続が認められている)。
通所系サービスの知識も不可欠だ。急変に対応できるシステムの重要性は第5回で既に述べたが,介護者の都合で一時的に利用するショートステイは,前述の3施設で対応している。3施設それぞれ施設としての機能は異なり,ショートステイ時にも医療依存度により選択して利用されるべきであるが,実際には機能が使い分けられているとは言い難い。正しい形で利用されていないのが現実である。
ちなみに,痴呆性高齢者を対象とした小規模施設である痴呆対応型共同生活介護(グループホーム)は,介護保険では居宅サービスに位置付けられている。したがって,グループホームへの訪問診療も要望が高まっている。このグループホームは現在全国で約800か所あるが,2002年度には2000か所に増える見込みであり,在宅医療とのかかわりが深くなると思われる。
では,具体的にどの程度の介護保険の知識が必要なのであろうか。1つの基準になるのが,ケアマネジャー資格取得試験であろう。試験(介護支援専門員実務研修受講試験)を受けるための準備が介護保険を学ぶ最も早道であり,余裕があれば試験を受けるのもいい。合格のためには要介護認定の仕組みなどは必ず知っていなければならない。例え試験を受けないまでも,ケアマネジャーにはどれくらいの知識が求められているのかは知っておくとよいだろう。なぜなら医師には,介護保険のサービスを調整してケアプランをつくるケアマネジャーたちと連携して患者を支えることが求められているからである。
ここで,介護保険の知識が必要であることを示す例を紹介しよう。
ある医師Aが,訪問リハビリテーションを行っている医療機関の医師Bに訪問リハビリテーションを依頼した。訪問リハビリテーションを行うにはもちろん医師の指示が必要だが,訪問リハビリテーションは介護保険のサービスに含まれているため,訪問リハビリテーションをケアプランに組み入れなければならない。つまり,医師はケアマネジヤーにも連絡をしなくてはならないのである。介護保険には訪問リハビリテーションや訪問服薬指導・栄養指導など,医師にはあまりなじみのないサービスも含まれているので注意が必要だ。在宅ケアに携わる者は,介護保険の仕組みをしっかりと理解していないと「正しく利用できない」のである。

患者の生活に深くかかわる
在宅の医師には
社会資源の知識も必要
一方,介護保険の対象とならない患者を支える制度も知っておく必要がある。在宅医療の患者は,1.ターミナル期の癌患者,2.虚弱な高齢者,3.障害者,4.神経筋難病患者の4つに分類できるが,必要なサービスや制度はそれぞれ異なる。介護保険の対象とならない患者の場合は,おもに自治体のサービスを利用することになるが,提供するサービスは自治体ごとに異なっているため,自分が活動する地域の制度を把握しておく必要がある。最近では,ノーマライゼーションの理念に基づいて多くの障害者が地域で暮らしていて,そうした障害者の医療支援も在宅医療を担う医師の役割である。
さて,制度とともに患者の生活を支えるのが,さまざまな社会資源である。
例えば,在宅酸素を導入する際にどこに連絡を取るのか,人工呼吸器はどこで入手するのか,などの医療機器調達の方法や,また,保健所から精神疾患患者宅へ派遣される保健婦,配食サービス,安否確認訪問など多岐にわたる行政のサービス,そして必要な生活用具としてのコミュニケーションツールや衣(ウェア)・食(介護食,介護食器)・住(介護用ベッド,ポータブルトイレ,住宅改造)関連の商品情報も,療養環境を整備するための基礎知識と言えるだろう。さらに,患者の外出時に付き添うガイドヘルパーや,福祉タクシー,地域のバリアフリーの施設,訪問理美容師なども患者の療養生活の質を高める資源という意味で押さえておきたい。
本来,これらの産業を含む社会資源のコーディネートは社会福祉士(ソーシャルワーカー)の役割であり,こうしたことは医師の仕事ではないと考える人もいるかもしれない。確かに,医師がすべてを知っている必要はなく,社会資源の知識と制度の理解が不十分でもソーシャルワーカーの存在を知っていれば彼らに任せる手があるし,また,社会福祉協議会や在宅介護支援センターなどに相談することもできる。しかし“在宅’の医師は,在宅で看取ったとき,家族に葬儀の手配についてまで開かれることがあるくらい密接に患者の生活にかかわっているわけで,ある程度はこうした社会資源を知らなければ,真に患者を支えることはできないと思われる。
幸い,社会の意識が変わってきたこともあり,最近では多くのマスメディアで福祉や社会資源に関する情報が取り扱われている。アンテナを立てながら新聞に目を通すだけでも情報量はかなり違ってくるはずだ。また,さまざまなネットワークとつながりを持つことも情報を得るためには有効だ。特に特定非営利活動(NPO)法人や市民団体と交流すると,市民の感性がダイレクトに伝わる。医師に求められているものを肌で感じることができるだろう。

医療と福祉,産業の複合体としての
地域ケアが求められている
冒頭でも述べた通り,日々の暮らしを支えることが在宅医療の基本であるから,そのためには必然的に医療のほかに自治体の制度やボランティアなどの地域の資源,民間の力も利用することが必要になってくる。つまり,在宅療養する患者を支援してゆくのは,医療と福祉,地域の産業の複合体としての地域ケア(コミュニティケア)(図2)なのではないかと思う。高齢化の進展により,施設医療の限界が心配され,地域ケアの重要性はさらに高まると考えられるが,医師だけでの在宅医療には当然限界がある。また逆に,医療職が“生活を支える視点,を持たなければ,医療依存度の高い人の在宅療養は実現しない。医療職にも地域ケアを推進する一員としての意識改革が求められている。
こうした,地域ケアの概念を取り入れると,患者を受け入れる場合も地域の窓口から紹介を受ける形が理想的になってくる。もちろん,病診連携,診診連携も大切だが,地域に連携のシステムが整っているのであれば,地域の窓口と医療機関が連携を取り,よりスムーズに包括的な支援ができる。地域ケアシステムがうまく機能し,問題の多い患者をスムーズに地域に返すことができた事例を掲げたのでご参照いただきたい(表)。

オーガナイザーとしての医師が
地域ケアには欠かせない
このように,地域ケアシステムが機能していれば,病院から地域に患者が帰るときもスムーズにつながっていく。
先にも述べたように,医師は地域ケアの一員であり,地域の窓口から紹介される患者を引き受ける,医療面での受け手になる意識も必要である。したがって,自分がいる地域のどこに地域ケアシステムの窓口があるかを知らなければならない。さらに,担当者の顔がわかるようなかかわり方をしていれば,社会資源の情報も入手できるし,地域ケアシステムはよりスムーズに機能するようになってくる。
社会は,医療の専門知識と技術を持つた医師という地域ケアの一員を求めている。ピラミッドの頂点に立つリーダーではなく,オーガナイザーであり,コーディネーターである医師が必要だ。もちろん,医師がリーダーシップを発揮する場面も多いが,医師がヒエラルキーの頂点に君臨しているようでは、地域ケアはうまくいかない。あえて,リーダーではなく黒衣に徹する意識が必要なのである。
さらに,オーガナイザーとしての医師が,率先して地域資源や他職種への理解を深めるようにしたり,1人1人が自分の役割を再認識できるような方法で,ケアチーム会議などを運営したり,医療と福祉の間にあった壁を取り払っていくように努めれば、地域ケアにかかわる人すべての意識が高まり,地域ケアのシステムもしっかりとしたものになっていく。
地域ケアシステムは,在宅ケアに熱心な医師がいなければ充実したものになりにくい。だから,医師にはぜひとも施設のなかにいるだけではなく,一歩地域へ踏み出して欲しい。
在宅医療を行う医師にとっては,地域が自分の勤務する医療施設のようなものである。地域ケアシステムのオーガナイザーとして地域を舞台に多くの医師に活躍してもらいたいと思う。(談)

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