目指すはワイルドな“ブルドーザー

大橋圭子さん
◎ケイ工フ産業・ケアフラザ小山ケアマネジャー

太田秀樹さん
◎医療法人喜望会理事長(栃木県小山市)

 ケアマネジャーと医師との意思疎通が図れていないケースが多い中、栃木県小山市内のケアマネジャー・大橋圭子さんと、在宅医療に取り組む医師・太田秀樹さんは、利用者のために互いに意見を言い合える関係を築いている。大橋さんは「ケアマネジヤーは自分から積極的に医師に会う努力を」と話し、太田医師は「知識と在宅ケアの経験を積んで、医師にモノが言える“ワイルドな人間になることがケアマネには必要」と指摘する。
まずは互いに面識を持つ
「利用者(患者)の体の症状は見ても、その生活に目を向ける医師は少ない。太田先生は生活を重視していて、多職種でチームを組む必要性を知っている人だから、連携が取れているのだと思う」と、ケアプラザ小山のケアマネジャー(ケアマネ)、大橋圭子さんは話す。
ケアプラザ小山は、ブルドーザーやフォークリフトなどを製造しているコマツの関連会社・ケイエフ産業が設立した居宅介護支援事業所。高齢化しているコマツ社員の福利厚生と、地域貢献を目的に、昨年4月にオープンしたものだ。大橋さんは以前、大学病院の看護婦だったが、在宅の現場で働きたいという思いから、設立準備段階からケアプラザ小山に。今年3月末までの間にケアマネは大橋さん一人で、利用者は約40人になる。
一方、太田秀樹医師は、小山市周辺で診療所などを開設し、在宅医療に熱心に取り組んでいる。以前は、大橋さんと同じ大学病院に勤務していたが、退院した患者が次々に病院に戻ってくる現状を目の当たりにして、「患者の生活を知らずに医療は成り立たない」と痛感。9年ほど前に在宅医療の道に入った。24時間対応で往診を行っているほか、「在宅医療は医師だけではなく、看護婦や理学療法士など多職種で関わってこそ可能になる」と考え、他職種や他科の医師とのチームケアを実践している。
そういう太田医師にとって、ケアマネはじめ他の職種の意見は重要なもの。大橋さんも太田医師に、はっきり自分の考えを言う。
「先日、体の調子が悪いという利用者がいて、太田先生はその人に薬を勧めたのですが、実はその人は、お嫁さんとケンカしたために元気がなかったんです。そこで私がそのことを先生に話し、薬は不要であると伝えました。医師の中にはこうした患者の生活を見る視点がなく、権威意識からケアマネの意見を快く思わない人もいますが、太田先生は違う。生活の中にこそ疾病の原因があると考え、私の意見も受け止めていると思います」
太田医師も「医師よりも、ケアマネや家族などの方が利用者の生活を知っているのだから、医師はいろいろ教えてもらわなければならない立場にある」と話す。
しかし、ケアマネや他職種からこうした意見を聞く耳がある医師は、まだまだ少ない。また、医師は多忙でもあるため、自分に会いに来るケアマネに対応している余裕がないということもしばしばだ。
そうした状況の中、大橋さんは、とにかくケアマネが積極的に医師のところに足を運び、まずは顔を覚えてもらうことが大事だと考える。小山市では、ケアマネは医師にケアプランを届ける義務があるため、大橋さんもケアプランを持参した際に医師と面談する。
「『ケアマネの顔が見えない』なんて話している医師がいたら、『ラッキー』とばかりに伺います」もちろん、診察中で会ってくれない医師もいるが、めげてはいられない。
「往診などで医師が利用者宅に来る日には、それに同行して、とにかく捕まえて話を聞く。医師のほうから連絡が来ることはほとんどないので、ケアマネが積極的に連絡するしかありません」こんな大橋さんを太田医師も評価する。「コマツの関連会社のケアマネだけあって、ブルドーザーみたいにたくましい(笑)。ケアマネにはそれくらいの勢いがなければいけない」。
太田医師は、ケアマネジヤーはもっと元気になるべきだと考える。
「中には、医師から一言言われただけで、連絡をしてこなくなるケアマネもいる。そんなことでは、利用者を守れないぞ、と言いたい」

  医師の権威を傷つけない配慮も

 大橋さんが、ケアブラン作成を通してしばしば問題に思うのが、「かかりつけ医」と「意見書を書く医師」とが同一でない利用者が多いということ。
例えば、意見書を書いた医師がかかりつけ医だと思って利用者宅に行くと、「実は、いつも診てもらっている医者は他にいるんです。意見書は、あまり診てもらっていないけれど症状を重く書いてくれそうな医師にお願いしたんです」という利用者がいるのだ。
「そういうときは、『いつも診てもらっている医師』と連携したいところなのですが、守秘義務があるのでケアプランを見せることはできません。結局、ケアブランを見せないまま相談しています。一方、意見書を書いた医師は、自分こそがかかりつけ医だと思っていたりするので、ケアマネジャーとしては対応に悩みます」
また、医師同士の連携ができていないのも問題だ。「外科と内科とを受診している方の場合、両方の医師の連携が取れていないため、薬が重複して本人に手渡されていたりします。痴呆の方の場合だと薬が山積みになっていたり、ときにはスーパーの袋にごちゃ混ぜに入れられていたりすることもある」こういうことを医師に伝えるのは、利用者の生活を見ているケアマネの役目だ。利用者の中には「医師には言えないがケアマネには言える」と言う人もいる。その声を、ケアマネは医師に伝える責任がある。
だが、権成的で、ケアマネからの意見を快く思わないような医師には、どう伝えればいいのか。大橋さんは、医師の権威を傷付けないように「さりげなく」意見する工夫も必要ではないかと考える。
「医師の中には介護保険のことをまだよく分かっていない人もいますが、あるケアマネは、そういう医師にケアプランを手渡すとき、介護保険についての説明などが書かれた書類もそっと添えているそうです。医師のところに足繁く通うのも、医師をさりげなく“教育”するのも、報酬には何ら関係ないのでボランティア的な作業になってしまいますが、ケアマネジヤーという新しい職種が社会に認められるようになるには、それだけ地道に努力しなければいけないのだと思います」

  ケアマネの独立機関化が連携の条件

 医師との連携を積極的に試みる大橋さんだが、現在かかわっている医師約10人のうち、連携が十分に取れていると思える医師は3人程度だという。乗り越えるべき壁はまだ高い。
一方、太田医師にとっても、外部機関のケアマネジヤーで緊密に連携が取れているところは、大橋さんのところも含めてわずか2カ所ほど。いずれも、医療機関などに併設されていない居宅介護支援事業所だ。併設型の居宅介護支援事業所で、太田医師に応援を求めてくるところは、ケースに応じてはあるものの、少ない。医療機関の多くは患者を囲い込む意識が働いて、他の医療機関の医師との連携は好まないようだ。
「ケアマネジヤーと医師とが本当に連携できるようになるには、まずはケアマネ機関が、どこの組織にも属さない独立した機関になることが前提条件だ」と、太田医師は指摘する。
また、医師とケアマネとが、それぞれに知識を磨くことも課題だ。
特に、今の医師教育のあり方について太田医師は、「在宅医療や多職種によるチーム連携のあり方を医師に教えるカリキュラムがない。だから医師は患者の生活が見られないし、ケアマネとの連携どころか、同じ医師同士でも連携などできていない」と厳しく指摘する。医師に求められるのは、生活を見る視点、患者や家族の意見を共感しながら聞けるコミュニケーションの取り方、チーム連携などの方法。それを医師は学ばなければいけないと力を込める。
また、医師がピラミッドの頂点に位置付けられていることにも異議を唱える。「医師は、あくまで『チームケアを構成する一員』」というのが太田医師の考えだ。
一方、ケアマネ側に必要とされるのは、医療に関する知識。「医療の用語が分からない」というケアマネが少なくないが、大橋さんは「ケアマネも医療についてある程度の知識を身に着けるべき」と考える。
「医師の中には、医療用語や薬品名を、略語や外国語で言う人もいますので、医師もそうした言い方はやめるといった配慮が必要です。でも、ケアマネも努力が必要。介護に至るプロセスには必ず疾病があるのだから、そのプロセスが見えていないままケアプランを作るなんて、あっていいわけがありません」
もし、医療の知識がケアマネになければどうなるか。例えば歩けないと言う利用者に対し、歩けなくなった原因やリハビリの可能性などを考慮せず、安易に「じゃ、車いすを使いましょう」と勧めてしまうかも知れない。これでは、利用者の機能はますます低下する。だから医療の知識は欠かせないというのだ。
太田医師も、ケアマネに辛口の注文を付ける。
「国があらゆる職種をケアマネジャーに認めて養成を急ぎ過ぎたせいでもあるが、はっきり言って、今のケアマネジヤーには専門性などないと思う。しかも、組織に所属しないといけないのだから、結局、所属組織に迎合したケアプランを作成するドメスティック(飼い慣らされた)ケアマネジヤーになってしまう。ケアマネはもっと、ワイルド(野生)でなければならない。組織に迎合せず、トップや医師にモノが言える人間になることだ」
その「ワイルド」になる条件として太田医師は、ケアマネジヤーが自らの知識を磨き、在宅医療・介護の経験を積むことだという。
「知識と在宅ケアの現場経験を積めば、自分に自信が持てて、意見をはっきり言えるようになるはずだ」
ケアマネジャーに求められるのは、言ってみれば「ワイルドなブルドーザーになること」。所属組織に流されず、知識と経験で武装して、利用者のために正面から医師に立ち向かえる存在になってほしい。       

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