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医療と介護のマネジメント情報誌  No.2 2003年5・6月号
『在宅』の時代
サービスの充実に欠かせない
価値観を共有するチームづくり


医療法人アスムス理事長
NPO法人在宅ケアを支える診療所・
市民全国ネットワーク副会長

太 田 秀 樹

チームをまとめる医師は花見の幹事のようなもの
在宅医療を実践するうえで、チーム医療は欠かせない。できるだけ専門分野の違う複数の医師が関与し、患者さんの病態が急変したときに入院治療が必要と判断されればすぐに入院できるシステムを作っておかなければ、在宅医療は維持できない。患者さんがどんな状態にあるときも、その人生を支え続けること。これが在宅医療の鉄則なのである。
私は開業以来、近隣の開業医や病院の医師らと協力、診療所内、医療法人内での各専門職の役割分担、システムづくりを進め、24時間365日体制の在宅医療に取り組んできた。私がプロデュースしたグループ診療施設である「メディスクエアゆうき」内には、「にこにこ歯科」、「さわやか内科」、「あおぞら整形外科」をテナントの形で設置。歯科医、内科医、外科医など7人でグループ参療を行っている。皆、私の取り組んでいる「生活を支える医療」に共感して集まってくれた仲間である。
医療理念や経営理念の基軸を同じくし、長く協力関係を維持できそうな医師を、大学の同窓生、医局仲間、医師会関係などさまざまなル←トで探し出し、一人ひとり誘った。人柄の判断には患者さんや看護師の意見をおおいに参考にした。論文の数や業蹟は関係ない。気さくで親切な医師こそ、チーム医療には必要だ。
医師という職種は、グループを作ることに慣れていない。そんな医師たちをまとめようと思ったとき、私はこう考えた。「花見の幹事になろう」と。花見は一人でもできるし、もともとしなくてもいいものだ。しかし、幹事が誘えば参加者が集まる。幹事は皆がどんな場所が好きか、どうすれば楽しめるかを考えあれこれ工夫する。不手際があってうまくいかなかったり、万が一雨でも降れば準備は水の泡。しかも全費任をかぶって謝るしかない。楽しい花見ができて当たり前。最後まで決してほめられることのない男子である。
在宅でのチーム医療に取り組む医師にカリスマ性は必要ない。花見の幹事のように、グループの仲間が気持ちよく仕事ができ、やりがいや利溢をシェアできる環境を作るために努力を惜しまないことが、チーム医療を成功させるうえで最も重要である。
チーム医療の目的は、あくまでも患者さんへのサービスを充実させることにある。一人の医師では24時間診療が不可能なように、患者さんにとって必要なサービスを十分供給できる体制を作るためには、チームづくりが欠かせない。

コ・メディカルの意見に素直に耳を傾ける
在宅医療チームは医師だけでは成り立たない。看護師、PT、OT、薬剤師、栄養士などが加わってはじめてチームは完成する。さらに、ヘルパーや福祉タクシーの運転手、住宅改修を行う工事関係者などたくさんのスタッフによって在宅ケアチームが作られる。チームづくりの基本はコミュニケーションだ。廉の見えないところにコミュニケーションは成立しない。宴会でも研修でも何でも良い。顔を合わせる機会を持つことが大切だ。
医師以外の医療スタッフとのチームづくりのポイントは、コ・メディカルが自由に発言できる場を確保し、その意見に医師が素直に耳を傾けることである。
直接患者さんに触れることの多いコ・メディカルたちは、医師が気付くことができない情報をたくさん集めて報告してくれる。なかでも看護師は、家族と患者さんの関係、住宅状況などの介護環境、病状から心の問題まで鋭く観察している。患者さんが、医師に言えない本音を看護師にだけ話すのもよくあることだ。
看護師が病気を早期発見する場合もある。私が在宅に取り組み始めた頃は、人員不足のなか手厚いサービスを提供しようと看護師が入浴介助をしていた。その時代には、患者さんの訴えない陰部の炎症や小さな乳がんを看護師が見つけることもあった。看護師がすみやかに報告してくれたので、すぐに治療でき、救命できたという経験が多々ある。こんなとき、医師である私に意見を言わせない雰囲気があったり、耳を貸さずに治療が遅れたら、病状は悪化してしまっただろう。周囲からの情報をいかに取り入れるかが、在宅に取り組む医師の仕事の善し悪しにつながる。アウトプットの仕事に終始しがちな医師が裸の王様にならないためにも、コ・メディカルの意見を受け入れる度量を持ちたい。医師にも知らないこと、できないことがあって当然だ。足りない分は仲間に助けてもらえばいい。

職域を侵し合うことでサービスの“みぞ’を埋める
医療の世界は専門職の集まりだ。それぞれの職種が行うことのできる行為が規定されている。そのため、自分の職域に他職種が介入するのを嫌ったり、反対に自分が他職種の仕事を行うことを避けるのが一般的である。しかしこのルールは、在宅医療ではなじまない。なぜなら、職域を守ろうとし過ぎると必ず職域間にみぞが生まれ、そこに落ちるのはほかでもない、一番守られなければならない患者さんだからである。
私はいつも、チームの仲間に職域を侵そうと呼びかけている。医師の仕事を看護師がすることはできないが、看護師の仕事を医師がすることはできる。ヘルパーと看護師の間も同じだ。ほかの専門職の間でも、侵して良い部分と悪い部分がある。それぞれが専門の仕事をきちんと行った上で、こうした重なり合う部分の仕事を積極的に行っていけば、みぞは埋まる。
お互いの職域を侵し合いながらもうまくいく関係は、短期間には作れない。私の場合、1992年の開業当初から、「患者さんの生活を支える動く医療の実賎」という基本理念を理解し、ついてきてくれた看護師が多数いたことが大きかった。
当初、訪問看護師としで忙しく駆け回っていた看護師は今、法人内の訪問着護ステーションやヘルパーステーションで後輩看護師やヘルパーの指導に当たっている。我々の行動の目的は「患者さんの生活を支えること」に尽きる。職域云々より、どうすることが患者さんにとって一番良いのかを基準に判断し行動するという基本的な考え方を、職員全員で共有している。
在宅では、より幅広い知識、臨機応変の対応能力、人間関係の調整能力などが問われる場面がしばしばある。そうした能力の基礎になるのは、人柄である。周囲の人々と価値勧を共有し、力を合わせて物事に取り組める人材を集めることが、結果的に良いチームづくりを実現させるのである。
在宅医療、在宅ケアに取り組むチームは、患者さんの病状や介護環境によって少しずつ違う。小さなチームもあれば、あらゆる職種がかかわる大所帯になることもある。どんなチームであれ、その中の一人ひとりは機械を動かす歯車と同じだ。ほかの歯車と協調し、機械を動かし続けなければならない。歯車が多ければ機械の質はより高くなるが、故障しやすくメンテナンスが大変だ。歯車が少なければ安定はしているが質を求めにくい。こうしたチームの特性を理解した上で、1つの歯車として機能しながら、ときにはネジを回し、ときには油をさす。そのタイミングやさじ加減こそ、在宅に取り組む医師がカを発揮すべきところである。

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