アビリティーズ選書B

自立への福祉用具住宅改修

○はじめに

  本稿は、NPO法人在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワークが、在宅医療助成勇美記念財団より平成15年度助成金を受けて行った、「適切な福祉用具の活用による在宅要介護高齢者の自立支援に関する研究」を基礎に、加筆修正を加えたものである。

 研究班(班長:医療法人アスムス理事長太田秀樹)は、最初に要介護虚弱高齢者の車いす活用の実態調査を行った。その結果、車いすの活用において、さまざまな問題点が浮き彫りにされ、厳密に評価すればすべて症例で、不良姿勢が強いられている実態を把握した。

 そこで、これらの。0不良姿勢に検討を加え、6つのタイプに分類した。従来いわれていた3分類でなかった。これは研究の対象が重症者だったためと思われた。

 次に、これらの不良姿勢がモジュール型車いす(写真1)とクッションの適応で改善できるか検討した。そして、車いす利用者自身と介護者から、使い勝手に関する聞き取り調査を行った。その結果、モジュール型車いすとクッションの利用で、移乗がより安全に容易に行えるなど、日常生活動作の改善が示唆され、これは自立支援に大きく貢献できると考えられた。さらに、いわゆる寝たきりといわれる高齢者にも、座位保持が可能であることが示され、離床を可能とすることで、寝たきりが予防できると考えられた。

 安定した座位保持により嚥下機能の著しい改善を示した例など、寝たきりを含む廃用症候群が、寝かせきりから作られるという仮説を強く裏付ける結果となった。

 しかし一方で、モジュール型車いすの利用を快適でないと答える高齢者も存在し、その傾向は軽症例により顕著であった。すなわち、障害が重症化すればするほど、モジユール型車いすの真価が発揮できると考えられた。

 また介護者の評価では、介護経験の浅い者より経験を積んだ者が、操作性の点で扱いにくいという印象を持つ傾向があった。従来から用いられていた普通型車いすが、介護者にとっては扱いやすいためと思われた。これは車いすが、利用者の視点ではなく、介護者の都合で使われていた歴史を物語るものであると思われた。

 モジュール型車いすが、寝かせきりの予防と自立支援にきわめて有効な手段となることが理解され、介護度が高くなればなるほど、モジュール型車いすが有用であることが示唆された。介護用ベッドの処方と同時にモジュール型車いすとクッションの処方がなされると、日常生活活動の改善から自立度が高まり、寝たきり予防に貢献できるだけでなく、介護負担の軽減に大きく寄与すると考えられた。

 以上の内容をより実践に役立つようポイントを絞って数回にわたり掲載していく。

○研究の背景と目的

 介護保険サービス利用者のなかで、福祉用具を適切に利用している者の割合はまだ低い。介護用ベッドは比較的多く貸与されているものの、一方でベッドと車いすを同時に利用している利用者は少ない。介護用ベッドを必要とするものの多くは、麻痺など移動の障害があってベッド上の生活となっているのだから、安定した歩行が可能なものは少ない。したがって、車いすを必要とする症例が多いことは、容易に想像される。しかし、現実は車いすへの関心や理解はたいへん薄い。

 その理由は、介護保険制度運用の要となっているケアマネジヤー自身に福祉機器への理解が浅く、福祉用具がケアプランに適切に組み込まれていないからだけでなく、社会全体の認識が乏しいことに起因すると思われる。福祉用具を積極的に有効活用することで、自立度が高まれば、介護負担が軽減され、これは今後高騰し続けると予想される介護費用の節減に大きく寄与することになるはずである。

 介護保険制度導入に際し、介護力を補完するマンパワーの養成は盛んに行われてきたが、福祉用具活用の啓発活動、福祉機器の開発等への予算配分は少なく、制度的バックアップは少ない。福祉機器の活用で、人的サービスに頼ったケアの内容や質が大きく変化し、介譲負担が大幅に軽減されることは、すでに諸外国では実証されている。ところが、わが国では不適切な福祉用具の適用が障害・虚弱高齢者の自立を支援するどころか、むしろ「寝たきりを助長しているのではないか」という症例に出会うことは、残念ながら稀なことではない。

 車いすを例にとるならば、歩行が障害された方々にとってそれは移動の手段であり、ある意味では身体の一部であると言うこともできる。したがって、車いすの選択や適応を誤れば、疲労や腰痛などで長時間の座位保持が困難となり、離床の有効な手段とはなりえない。

 また、従来の車いすがアームレストやフットレスト固定式となっていることになんら疑問の声が聞かれないが、アームレストが跳ね上げ式であれば、一人でベッドやトイレに移乗できる身体機能を残した症例も少なくない。さらに、たとえ介助を要したとしても、わずかな援助ですむことが多い。フットレストも同様である。

 福祉先進諸外国では、車いすのほとんどがモジュール型であり、利用者の身体的状況や生活様式に応じて可能な限りオーダーメイドで用意されている。モジュール型車いすは、使用者の身体に合わせて部品を組み換えて、その場で仕様が変えられる。写真2〜5はモジュール型車いすの機能を示す。部品を交換するだけであらゆる障害に対応でき、生涯にわたって最良の状態で利用できる。アームレストやレッグレストを取り外せるので、移乗の時や、片麻痺の人が足こぎ走行する時に、妨げにならないようにできる。また、非常にコンパクトになる。身体状況の変化により不要となった場合でも、補助器具センターが回収し、再利用を可能としているのである。

 車いすは近視の人の眼鏡と同様、個々の障害に応じて誂えられるべきものであり、車いすに身体を合わせて利用するものではない。

 ここで、日本の福祉用具利用の現実に目を向けると、第2次世界大戦終了後に用いられていたいわゆる普通型車いすが、21世紀の現在もスタンダードタイプとして汎用されている。いす文化の歴史の残さにも起因すると思われるが、介護保険制度施行後も同様で、車いすに対する理解は著しく不足している。

 そこで普通型車椅子利用においての問題点を調査してみた。

○普通型(スタンダードタイプ)

 車椅子の問題点の調査

1.目 的

 介護を要する虚弱高齢者が普通型車いすを使用して生活する場合、どのような問題が生じているのか、座位姿勢を中心に実態を調査した。

2.対 象

 おおむね、要介護3レベル以上で日常生活に車いすを必要としている高齢者21名。在宅高齢者は、71歳から87歳までの男性3名。80歳から91歳までの女性4人。施設高齢者は、68歳から95歳、平均84.3歳。男性3名、女性11名であった。平均要介護度3.5(表1)。

 原疾患は脳血管障害が多かったが、いわゆる典型的な老人姿勢によって歩行が障害されたものもいる。在宅高齢者は十分にコミュニケーションが図れ、訴えに信頼性があり研究に協力できる方としたが、施設高齢者は、痴呆などを合併しているものもその対象としている。

3.方 法

 車いすを利用している状態をデジタルカメラで撮影して、座位姿勢を調査した。その後、カナダ・]センサーテクノロジーコーポレーション(商品名 ]センサーS座圧測定装置)(写真6)を用いて、座面の圧測定を行った。

4.結 果

(1)普通型車いすで座位保持姿勢に問題があったと考えられたのは、調査した全例であった。座位が安定しない症例は、時間とともにさらに姿勢が崩れ、斜めに傾いたり、滑り落ちそうになった。

(2)仙骨部や座骨部に褥瘡の既往があって、臀部の痛みや不快感を訴える症例3例。

(3)不良座位姿勢が原因と考えられる摂食嚥下障害2例。

 そこでこれらの不良姿勢の分類を試みると次の6つに分類できた(表2)。

@ 円背 Roundbacktyp¢(以下、RBタイプ)図1〜3 女性3例

  全例が、骨租しょう症などが進行して多発する背椎骨の圧迫骨折により、高度な円背となった女性であった。この姿勢を長時間続けると、脊柱の前傾(胸椎の後彎)増強され、座位保持は困難となった。この姿勢は腹部への圧迫が強く、食道裂孔ヘルニアが生じると逆流性食道炎の発症が高率となるといわれている。平均要介護度は、3.0であった。

  図1は、イメージ図で、典型的な症例は図2である。座圧の測定(図3)では、仙骨から尾骨部で局所的、に圧が高い。

A 仙骨座リ PeIvic榊(以下、PTタイプ)

 図4〜6 女性2例、男性1例

骨盤が後傾し、臀部が前方へずれ、仙骨で座位を維持する。多くの場合、円背も伴っているので、頚堆の前彎によりあごを突き出し顔面は上方に向いている。この姿勢は嚥下機能障害を認めた。平均要介護度は3.0であった。

 図4は、イメージ図で、典型的な症例は図5である。座圧の測定(図6)では、仙骨から尾骨部で局所的に圧が高い。

B側攣 Scoliosistype(以下、SCタイプ)図7〜9 女性6例、男性2例

 片麻痺など左右の筋力のバランスが悪くなると、体幹が麻痺側に傾斜する。8例中6例は麻痺側への側彎だったが、2例だけ健側へ傾斜していた。

 これらの痘例はすべて脳血管障害で障害が重度で、平均要介護度は3.6と高かった。

 図7は、イメージ図で、症例は図8である。座圧の測定(図9)では、側彎を呈している側に強い圧がかかり、非対象となっている。凹側の座骨部に局所的に強い圧がかかっている。

 さらに姿勢の変化が混在しているものがあり、これらは重症で平均要介護度は4.1であった。強い側彎を呈して、円背を伴う(sc+RBタイプ)、あるいは仙骨座り(sc+PTタイプ)、その両者を併せ持つ(sc+PT+RBタイプ)がある。要介護度から堆し量ってもより重度といえる。

C SC+RBタイプ 図10〜14 男性1例、女性2例 平均要介護度4

  図10・11は、イメージ図で、症例は図12・13である。座圧の測定(図14)では、側攣を呈している側に強い圧がかかり、非対象となっている。凹側の座骨部に局所的に強い圧がかかり、仙骨・尾骨部の圧も高い。

D SC+PTタイプ 図15〜19 男性1例、女性2例 平均要介護度4

 図15・16は、イメージ図で、図17・18である。座圧の測定はバ判例 1

症個では、側彎を呈している側に強い圧がかかり、非対林となっている。凹側の座骨部と仙骨・尾骨部に局所的に強い圧がかかっている。) 

E SC+PT+RBタイプ 図20〜25 女性1例 平均要介菱度5

  図20・21・22は、イメージ図で、症例は図23・24である。座圧の測定(図25)では、側彎を呈している側に強い圧がかかり、非対称となっている。凹側の座骨部と仙骨・尾骨部に局所的に強い圧がかかっている。

  なお理論的には、(う円背と仙骨座り(RB+PTタイプ)図26〜27はイメージ図での重複姿勢も考えられるが、今回の調査ではなかった。

○まとめ

 おおむね要介護度3レベル以上で歩行困難な要介護高齢者は、脊柱の変形や麻痺などにより、安定した座位を普通型車いす上では保持できていない。厳密に言えば、全症例が適切に車いすを利用していないといえる。この結果は普通型車いす利用にきわめて大きな問題があるといわざるを得ない。

 既に一般に理解されているように、座位保持が困難であれ例えベッド上の生活となり、結局寝たきり老人をつくってしまうことになる。

 従来、車いすでの不良姿勢を3つに分類してその特徴が分析されていたが、重度化した高齢者の姿勢は6つに分類して考えることが妥当である。特に、要介護度が高まると側彎を呈している症例が多くなり、これらの症例は普通型車いすでは数分間の座位保持も困難で、姿勢が崩れるため、ベッドでの療養を余儀なくさせられることが明らかとなった。

 次回は、これらの不良姿勢を呈する症例にモジュール型車いすを活用してみる。

*在宅医療助成勇実記念財団:住野勇氏(オートバックスセブン特別顧問)が、株式公開から得た資産は社会に還元すべきとの信念により、2000年7月に財団を設立した。財団名の勇実はご夫妻のお名前である。この基金は在宅医療に携わる方々の支援を目的としている。基本財産39億円。

 

・住所:東京都千代田区平河町2−7−9 全共連ビル

・電話:03−S226−6266

・URLhttp:〃www.zaitakuiryo−yuumizaidan.com

 前号では車いすを利用している比較的重度の要介護高齢者のすべてが不良姿勢を呈していることを報告し、その不良姿勢の分類を試みた。そこで今回はこれらの不良姿勢がモジュール型車いすと特殊空気室構造をもったROHOクッション利用でどれほど改善できるか考えてみたい。

 そもそも不良姿勢は、解剖学的、生理学的な視点で示されるべきである。しかし、平均寿命を超えた、あるいは要介護状態となった高齢者にとって理想的な姿勢とはいったいどのようなものか、現状ではほとんど議論されていない。したがって、ここでは疲労が少なく長時間の座位が可能で、褥瘡などの合併症が予防でき、さらに移乗が容易に安全に行え、介護がしやすいというさまざまな機能をモジュール型車いすに求めたのである。

 

1.円背 Round back type(以下、RBタイプ)

・95歳女性 要介護4 (写真1、2)

 普通塑車いすでは円背によって顔が下方を向き、肘にかかる負荷は左右差があり、体幹は右に傾斜している。モジュール型車いすでは、主としてバックレストの背張りを調整し、アームレストの位置を調整した。明らかに座位姿勢の安定が感じられ、表情にも活気が出ている。

2.仙骨座り PelvicTilt(以下、PTタイプ)

・94歳女性 要介護4 (写真3、4)

 普通型車いすの利用では、反り返って座っているが、モジュール型車いすでは、座面の奥行きと背張りを調整することでより安定した姿勢に改善されている。

3.側彎症 Scolisosistype(以下、SCタイプ)

・87歳男性 要介護4 (写真5、6)

 脊柱の変形によって左凸の側彎を呈しているが、モジュール型車いすのアームレストを調啓し脊柱変形を矯正している。

4・側彎を呈して円背を伴う(SC+RBタイプ〕

・90歳女性 要介護5 (写真7、8)

 側彎と円背の矯正はフットレストのクッションを利周しているが、表情も改善している印象である。

5.側彎を呈して仙骨座りを伴う(SC+PTタイプ)

・86歳男性 要介護4 (写真9、10)

健側の下肢を利用して、いわゆる足漕ぎができるように座面とフットレストを調整している。麻痺側の上肢(右)はアームレストを調整し、肘掛としてしっかり機能している。

6.側彎を呈し円背と仙骨座りを伴う(SC+RB+PTタイプ)

・84歳女性 要介護5 (写真11、12)

 ご覧のように、車いすで座位を保持することが困難なほど重度であるが、モジュール型車いすを利用するた、何とか座位をとることができる。

 

モジュール型車いすの有用性

 

 比較的重度の要介護高齢者を中心に調査を行ったが、一般には座位保持が困難で、寝たきり(障害老人寝たきり度c−2レベル)とみなされている高齢者でも、座位保持の可能性を示唆している。寝かせきりによって廃用症候群が助長され、寝たきり老人が生まれると言われているが、モジュール型車いすとクッションの組み合わせで、寝たきり高齢者の廃用症候群を改善させられるのか、さらに検討を要する新たな課題である。

 介護保険制度は、リハビリ前置主義を謳っていて、安易な車いすの処方が、かえって介護度を悪化させると警鐘が鳴らされている。さらに来年度の制度改定で要支援、要介護1レベルと介護度が低く認定された利用者には、車いすの貸与ができなくのではないかと囁かれている。確かに、車いすの必要性が医学的な根拠に基づくものであれば異存はないものの、単に介護度が低いという理由で貸与されないことも問題だ。しかし、身体にフィットしない車いすの利用こそ、寝たきりを助長するという認識が重要である。車いすの機能に問題があって、長時間の離床が困難で、ベッド上生活が余儀なくさせられているという重大な知見が得られた以上、介護保険制度の要であるケアマネジヤーに車いすの正しい知識もたせることが急務であろう。

 介護用ベッドの利用率はかなり高いが、介護用ベッドを必要とするような歩行が困難な利用者には、座位保持が可能なモジュール型車いすとクッションを同時に処方しないと、それこそ寝たきり高齢者を生み続けることになると考えられる。

 筆者は実際普通型車いすに数時間座ってバス流行した経験を持つが、一般のシートと比較して、疲労感が強く背腰部痛に悩まされた。要介護4、5レベルであっても、離床は基本である。

 車いすの機能をもっと真剣に考えてもらいたいものである。次回は介護者の視点でモジュール型車いすについて考えてみる。

 前回、前々回の稿では、要介護高齢者の多くが不良姿勢を強いられて車いすを利用している実態を報告し、それらの不良姿勢をモジュール型車いすの応用で改善できるか検討、モジュール型車いすの優位性について言及した。しかし一方で、介護者からは、車いすは軽量であることがもっとも重要だ」といった声も未だ開かれ、介護のしやすさが車いす選びの重要な基準となっている。

 このような意識が、自立に向けた車いすのありかたを軽視する要因の一つとなっていると思われるが、今回の最終稿では、介護者の視点での車いすへの評価を勘案し、自立支援に向けた福祉用具選定を阻む問題についても考えてみたい。

 

現場における福祉用具の位置づけは適切か

 

 平成12年にスタートした介護保険制度では、在宅療養の推進に力が注がれて、介護サービスメニューのひとつに福祉用具の貸与が組み込まれてる。その対象品目も平成15年度より17品目とさらに増えた。

 厚生労働省の介護給付実態調査報告(平成15年12月15日)によると、福祉用具貸与は居宅サービス受給者の36.7%が利用しており(平成15年10月現在)、車いすの貸与は13.4%と特珠寝台に次いで多い。本来福祉用具は、利用者の状態像、それらの使用環境、取り巻く家族の介護力や介護保険サービス提供者である医療・福祉の専門家のアドバイスなど、多角的な視点で選定されないと有効な活用は困難である。何を目的にどのように使用するのかを正しく把握し、適切に用具が選ばれてはじめて自立支援のための福祉用具の実際的な活用につながると考えられる。選択肢が増えても、何を選択したらよいのか戸惑いがあるのが現状で、その導入に際して適切な指導ができる人材の不足は深刻だ。

 介護保険制度利用には介護支援専門員がたいへん重要な役割を果たしており、これは福祉用具の導入においても同様である。さらに介護の現場に目を向けると、施設基準や人員配置基準は厳密に規定されているものの、福祉用具の導入については、基準や規定などほとんどない。

 市場にはさまざまな福祉機器が紹介されているにもかかわらず、病院や高齢者施設で、欧米のように個人の障害や体格に合わせて調整された車いすを目にすることは少ない。さらに腰痛予防など、ケアワーカーヘの健康配慮のため、移乗に際してリフトを設置するようにといった指導はない。それどころか、行政から器械による介護が利用者の尊厳にかかわるので好ましくないという指導を受けた経験があるなど、福祉機器に対する社会全体の偏見は大きなものがある。

 

ケアワーカーの視点で

モジュラー型車いすを評価する

 

 高齢者施設において、標準型およびモジュラー型車いすを試用体験し、車いすに村する評価をケアワーカーの視点から検討してみた(勇実記念財田助成研究報告書より)

 

1.研究の概要

 研究調査は短期入所療養介護利用者を含む50床の介護老人保健施設で行った。対象者は施設入所中で標準型車椅子を利用している要介護度3レベル以上の利用者13名(68歳から95歳の男性4名・女性9名で平均年齢85.4歳)。これらの症例は、普通型車いす利用における問題点の実態調査に協力を得た利用者と一部重複する。13名全員は移乗動作に介助を要する状態であった。これらの症例にモジュール型車いすを一定期間利用してもらい、ケアワーカーへ介護のしやすさなどについてアンケート調査を行った。アンケートの対象者は、平成15年7月現在の調査時に当施設に勤務しているケアワーカー16名である。ケアワーカーの経験年数は0か月から13年5か月、平均3年7か月。基礎資格は14名がヘルパー2級もしくは介護福祉士で、資格取得後1か月から4年2か月、平均2年6か月である。年齢は22歳から54歳で、男性5名・女性11名。平均年齢34.5歳である。車いす利用者自身の印象では、使い慣れた車いすに好印象を抱く傾向が見られているが、果たしてケアワーカーにおいてはどうであろうか。

 

 2.研究の方法

 試用体験のモジュラー型車いすは、ドイツ・ソプール社のイージー160Hで、試用体験期間は2週間から4週間であった。モジュラー型車いす使用開始時に、対象者ごとにフイツティングした。その内容は、座幅・奥行き・前後座高・背張り・アームレストフットレスト、クッションの調整である。

ケアワーカーらは、介護老人保健施設での通常の生活支援を行い、モジュラー型車いすと標準型尊いすの使い勝手についてアンケート調査に答えた。さらにその分析には、ケアワーカーを経験年数2年末満と2年以上の2つのグループに分けた。聞き取り調査は、試用体験終了直後と、2か月後に行ってる。

 質問内容は主として、@移乗に関して、Aアームレスト/フットレストの着脱機能に関して、B駆動のしやすさ関して、C総合評価について−である。@〜Bに関しては「使いよい」、「普通」、「使いにくい」の主観的な三段階評価とした。

 

3.研究の結果

 試用体験終了直後のアンケート調査結果は、経験年数にかかわらず移乗機能・着脱機能において「使いよい」と評価をするものが多く、駆動性においては「使いにくい」と評価するものが多かった。しかし、経験の浅いケアワーカー群は、どちらの点においてよい印象をもった。

 総合的な感想では、移乗介助がしやすい半面、駆動介助のしにくさ、すなわち、押しづらいというものであった。ところが、試用体験終了後2か月におけるアンケート調査結果で興味あるのは、標準型車いすが良いと答えたものはいなかったことである。ただし、比較的自立度の高い利用者については、モジュラー型でも標準型でも、大きな差がないと答えたものがいた。

 

自立支援の福祉用具

 

 要介護高齢者の日常生活をより快適なものとするためには、福祉用具の有効活用が必要であることに異論はないはずだ。当施設での車いすの利用状況は、平成15年7月現在入所者78.3%(46人中36人)で、車いすがいかに重要な福祉機器であるかお分かりいただけると思う。

 介護老人保健施設等の高齢者施設において、少なくとも歩行困難な入所者には、全例車いすが必要で、とりわけ寝たきりといわれているCレベルの要介護高齢者には、離床のため車いすが必須の福祉用具といえる。ところが、寝たきりの高齢者が利用できる車いすを備えている施設は少ない。個々の障害に適した車いすが処方されてはじめて快適な生活が送れるもので、寝たきり大国と揶揄されるゆえんがこのようなところにある可能性も否定できない。

 36人の車いす使用者のなかで、16人は自力での駆動が可能であったが、移乗などで、ほとんどの利用者がケアワーカーの見守りや援助を必要とした。移乗が自立していると考えられたのはわずか4人であり、約9割に何らかの介助が必要なのある。

 さらにそのうち約7割が、いわゆるベッド上といわれるCレベルで、廃用症候群の予防を目的に、離床のため、車いすとベッド・便器への移乗、車いすでの移動など、頻回に介助が行われている。移乗介護負担は大きく、したがって、アームレスト跳ね上げ・フットレストのスイングアウト着脱機能については評価が高いものと思われた。

 移乗介助を安全に、確実に、介護負担少なく行うにために、これらの機能がたいへん有効であることが実証されたのである。理論はそのまま現場にあてはまっている。

 しかし、モジュラー型車いすは、その機能の特性から標準型車いすよりも重量が重くまた、フレームの剛性が高く、前輪の安定性がよいため、小回りが効きにくいという欠点がある。したがって、経験年数2年以上のケアワーカーには、日ごろ使い慣れている標準型車いすの操作性を基準としたため、モジュール型車いすの評価が低かったと思われる。一方、経験年数が少なく、就職間もない2名のケアワーカーは、モジュラー型車いすの駆動性を「使いよい」と評価しており、先入観なく使用したために得られた回答と考えられる。

 

車いすは生活の場

 

 歩行能力が低下した要介護高齢者は、座位保持能力も同時に低下している。当施設内調査においても、支えなしでの座位保持が可能な14名のうち、歩行可能なものは10名で、4名は常に車いすを使用していた。これは、歩行困難→座位保持困難→寝たきりのプロセスを予想させるもので、座位保持困難を寝たきりにしないためには、車いすに座位姿勢を安楽かつ機能的に保持する椅子としての機能が備わっていることが重要と考えられる。
従来移動の機能に着目して車いすが存在していたように感じるが、寝たきり予防が提唱され離床を進めるために車いすの導入が行われ始めた以上、車いすに生活の場でという認識が求められる。

 

車いすと食事の関係

 

 今回の調査で思わぬ効果が現れたのは、

モジュール型車いすによって座位姿勢が保持され、ケアワーカーから「姿勢がよくなって、食事介助がしやすくなった」、利用者からは「食事が食べやすくなった」、などの声が聞かれたことである。

 座位の安定により摂食・嚥下機能が改善することはすでに報告されているが、摂食機能は、栄養素を摂取し、単に生命を維持するために重要なだけでなく、咀嚼が大脳への血流を増加させることや、口腔内の自浄作用を増強することも知られており、何にも増して食べる喜びは人としての本能的欲求を満たすのである。

 片麻痺を始め、歩行機能が障害されるよな中枢神経系の麻痺は、仮性球麻痺を伴うことが多く、嚥下機能が低下している要介護高齢者は多い。嚥下機能の改善に安定した座位の確保が重要であり、摂食の第1段階として必須の条件となる。

 加齢に伴い誤嚥が生じやすくなるのは、生理的な反射機能の低下によると理解されているが、たとえ自力で食べられる場合も介助が必要な場合も、安定した座位の確保は食事の基本と考えられ、シーティング知識と技術の重要性が際立つ。

 視点を変えれば、正しい姿勢での生活が、嚥下機能の改善をみるなど、副次的な効果も高く、廃用症候群の改善が結果的に自立度を高め、介護負担を軽くするという可能性がはっきり示されている。今後は、離床が身体運動機能に及ぼす良い影響の調査研究などが、新たな課題となったと思われる。

 

おわりに

 

 身体障害者福祉法で障害者手帳を交付され、1級、2級など基準を満たすものには、車いすが給付され、必要に応じてあつらえることができる。ところが、介護保険法においては貸与となり、施設に入所すれば施設が用意した標準型車いすの利用を強いられる。こういった現実は、財政論が優先された結果で、利用者は無視されているとしか言いようがないが、福祉機器導入への矛盾は至る所で露呈している。

 たとえば褥瘡の既往がないと、特殊空気室構造をもったクッションの給付は困難であることが多い。褥瘡予防のクッションは、褥瘡ができないと使えないのである。脊髄損傷で身体障害者手帳の交付を受けている例でも、年齢的に介護保険制度利用が可能であることを理由に、車いすの給付を拒否されることも現実には起こっている。

 しかし、モジュール型車いすは、けっして高価ではなく、普通型車いすをオーダーメイドするよりはるかに安く手に入ることもある。その上部品を交換することで長期の利用も可能で、障害が重度化しても、改善しても即座に対応可能である。自立度を高め介護負担を軽減し、さらに費用面での負担が少なくなるとなれば、まさしく一石二鳥といえる。

 今後も介護保険制度下において、福祉機器を貸与と位置づけるのであれば、モジュール型車いすのこそ制度に馴染むと思われる。安易な車いすの利用を改めるのではなく、不適切な車いすの貸与こそ戒めるべきであろう。福祉用具への偏見と先入観を今一度払抹して、本来の福祉機器のあり方を真剣に考えてもらいたい。

        ◇

 この研究のため研究費助成をいただいた勇美記念財団住野勇氏に敬意を表するとともに、車いすの提供に快くご協力いただいた、株式会社日本アビリティーズ・ケアネット社伊東弘泰氏に深謝いたします。

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