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Vol.3 第11号 2002 November

在宅医療の質をより高める
在宅検査と機器

NPO法人
在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク
副会長 太田秀樹

進化した検査機器を在宅に取り入れ移動による患者の負担を軽減する
近年,機器の小型化などにより在宅医療の現場でも,さまざまな検査が行われるようになってきた。しかし一般的にはまだ在宅で積極的に検査を行うのは少数派であるため,一部の医師が例外的に行っていると考えられている側面がある。しかし,そうした認識と在宅の現場の実態の間にはずれがある,と在宅医療を積極的に行っている太田氏は指摘する。
「在宅の患者は,寝たきりの高齢者や麻痺などで物理的に移動が難しい人。物理的に搬送が可能だとしても,高齢者などはいきなり環境を変えることで失うものか大きい。したがって,在宅でできることは可能な限り在宅でやったほうがよいというのが基本的な考え方です。大がかりな検査をしなくても,ポータブル機器を導入したり,検査を柔軟に用いれば在宅でも病院と遜色ない医療が可能です。だから,在宅ででさることは在宅で行い,できる限り移動や環境の変化による患者の負担を軽減したいと考えるのは当然の発
想です」
さらに,一般的には「在宅でどこまで検査が可能か」に関心が集中する傾向があるが,大切なのは何を在宅で行うかではなく,在宅で行った検査の結果をどう診断に役立てるかだという。
「医療の中心となるのは,あくまでも医師の経験に裏打ちされた診断であり,その根拠を示すのが検査の役割。あらかじめ決められた検査を行う『検査ありき』では困ります。診断を付けるうえでどのような検査が必要か。そのなかで今,在宅で行うべき検査は何なのか。必要に応じて適正に検査が行われる必要があります」
同氏が考える在宅で行う検査の条件は,非侵襲的で多くの情報量が得られること。特に尿や血液は安全に採取でき非常に大きな情報量を持っているので,在宅で活用するのに適しているという。一方,内視鏡などリスクを伴う検査は在宅で行うには適していない。
リスクマネジメントという概念を取り入れれば,何かが起きたときに対応できる環境で行うことがベストであり,それが優先されるのは当然との考えだ。
先に述べたように,こうして在宅で検査が行われるようにってきた背景には,機器の進化が挙げられる。今後も虚弱な高齢者がますます増加し在宅医療へのニーズがさらに高まると,市場の拡大に伴って機器メーカーがより開発にカを入れていくことが予想される。
機器はどんどん進化していく。

在宅でも検査を柔軟に活用すれば遜色がない急性期の医療が可能では具体的に,在宅ではどのような検査が行われているのだろう。太田氏による検査の槻要を紹介する。、
第一に形態学的な検査。これは人体の構造を肉眼的な視点で捉えたもの。ここにはMRIやエコー(超音波),]線などの画像診断が当てはまる。しかしMRI検査は機器が大がかりで在宅での実施は,構造上難しい。エコーは3Dも出てきたほど進化しており,在宅
における形態学的な検査の花形と言ってもよい。]線は非常に有用であり,撮影条件の自動化・現像などの手順の簡略化が期待されている。最近では画像をデジタル処理できるものなども開発されてきているため,技師でなくても気軽に撮影できるなど使いやすくなってきている。今後はデジタル撮影などの開発も期待したいところである。しかし,]線は安全面に問題はないとされているものの,根本的な被曝というマイナス要素があるため,使い方を誤れば必ずしも安全ではなく,社会的コンセンサスの問題も含めて考えると導入しにくい現状がある。後述するが,場合によっては]線に代わる手段で診断を行うことが可能であるため,同氏は骨折など特殊な症例に限って在宅]線撮影を行っている。
次に生理学的な検査。物理学的な原理を応用するもので,心電図やパルスオキシメーターなどがこれに該当する。物理学的な検査は,器機が小型化すればだいたい在宅に導入することが可能なものが多く,その進化には目を見張るものがある。
最後に,生化学的な検査。尿や便,血液の成分を化学的に分析して身体の状態を調べるもの。先述した通り,非侵襲的で簡便なため在宅での有用性か非常に高い。
以上が在宅で行われる検査の概要であるが,先にも述べた通り在宅ではこれらの検査を現場の状況に合わせて柔軟に取り入れており,どう検査を活用しているのかが重要である。同氏は例を挙げてこう説明する。
「在宅で対応が厄介な合併症の1つに肺炎が挙げられます。気管支炎と肺炎は聴診器一本での鑑別は困難で,診断するにはこれまで医師は]線で肺の形態を見てきました。では,在宅では]線撮影ができないから診断できないかというとそうではありません。パルスオキシメーターで肺の機能を見ればよいのです。『肺炎を診るのは]線』,そう決め付けずに在宅で可能な検査で柔軟に対応する。腸閉塞の原因であっても腫瘍マーカーとエコーで推測することができます」
]一線で参断しないことに疑問を唱える人もいるかもしれないが,患者を動かすことで得られるものと失うものがあることを考える必要がある。
「在宅は急性期の医療をできるだけの環境になってきました。肺炎1つ取ってもたくさんの選択肢がある。さまざまな検査や検査機器のなかから臨機応変にそのとき最適な手段を選べば,病院と遜色ない医療ができます」

 高齢者と若年者・障害者では急性期における検査の適応が異なる
続いて太田氏は,検査の適応と実際の対応について在宅医療の現状と合わせ解説した。
同氏はまず,在宅で起こりうる疾患はある程度限られているため,高齢者に関しては在宅で対応できる場合が多いとし,こうした高齢者の在宅医療の特徴を踏まえたうえで検査の適応について,次のように語った。
「在宅では完璧な診断が必要でない状況も起ってきます。つまり,老衰
など寿命で亡くなる場合には積極的に治療する意義が薄いことも多いので,スクリーニングの必要のない患者もかなりの数いるわけです。例えば吐血した場合,その原因を徹底的に調べる必要があるかと言えば,そうでない場合も多い。吐血原因がもし癌と判明した
としても,高齢者の場合,積極的な治療は行わないことが多い。したがって,治療は正確な診断に基づいて治療計画を立てて行うのではなく,原因が何であったとしても必要となる処置を当初から行うことになります。なぜ吐血したかという原因はどうであれ治療を優先させるわけです」
次に同氏は,在宅における急性期の対応が必要な疾患のための検査の実際について解説した。経験的に,@肺炎,A心不全,B吐血・下血などの対応を迫られることが多いという。

@肺炎
酸素と抗生物質の投与で対応する。これまではX線で形態から機能を予測していたが、現在では機能そのものがわかる時代になっており、形態を見なくても治療できる可能性が出てきた。肺の写真・形態から機能を予測するより機能自体を評価することができる。
A心不全
一般的にはX線写真が必要と考えられているが.最近では血中に分泌されたヒ卜脳性ナトリウムペプチド(BNP)を測定することによって,心不全を疑うことができる。臨床症状とBNPの測定、パルスオキシオメーターで心不全の診断をし、利尿剤を投与し、早期に対応することが可能だ。

B吐血!下血
薬剤性の粘膜病変の可能性があるので薬剤を中止し、抗消化性潰瘍薬(プロトンボンプ阻害薬/PPl製剤)や胃粘膜修復薬(H2受容体指拮抗薬)などで様子を見る。
このほか在宅で「common」と言われる症状に発熱が挙げられるが,発熱の場合にも検査機器を活用することで,さまざまな対応が可能になる。
感染による発熱の場合,多くは尿路か気道感染である。気道感染の場合,パルスオキシメーターがあれば重症かどうかがわかる。尿路感染の場合は,潜血や白血球は検査用紙を使えばその場でわかる。
「往診の際,この2つの情報から診断の幅が狭まります。つまり,治療方針を決定するうえでの診断のオリエンテーションが付く。その場で抗菌薬を出すか,脱水だとわかれば点滴だけにするか決められるのは大きなこと」(太田氏)
また,胆嚢炎などで発熱する場合もあるが,これもエコーと血液検査で診断できる。最近ではその場で血液分析できる器機も開発されており,有用性がきわめて高いという。
ここで同士は、在宅での急性期医療における高齢者と若年者の対応の違いについて言及した。
「若年者の場合には対応が異なります。死に至る疾病を持っていない人が発症したような場合は、当然スクリーニングをしっかりし、必要であれば手術の適応も検討することになります。高齢者とは対応が異なることが多いのです」
さらに高齢者の中でも対応が別れるのが、在宅でこれ以上の詳しい検査ができないとわかった場合だ。この場合、太田氏は、病院へ搬送するか在宅での療養を継続するかは本人と家族の意思であるとし、在宅医療を始めた当初から,緊急の場合に搬送するのか在宅で最期まで看るのかは家族で日ごろ話し合っておいてもらうようアドバイスしているという。

 在宅検査機器は患者に安心感を与えるコミュニケージョンツールとなる
さて,忘れてはならないのが,コミュニケーションツールとしての在宅検査の意義である。太田氏はこう語る。
「例えばエコーを使用した場合,まず画像を見ながら説明するとわかりやすいし,エコーの画像を見ながら患者や家族と話すことで医師の説明に客観性が出てきます。そして,それと同時にデータを前に説明すれば,患者や家族は安心できるわけです。つまり『これも違う,あれも違う』と,否定できる疾患を示すだけでも患者は『重大な事態ではない』と安心することができます。それは医療者にとっては意義の薄いことかもしれませんが,患者にとっては実に大きなことですから,意味があるかどうかを考える前に,その場で集められる情報は集めて示すようにしています」
同氏は,このように在宅検査の意義は「患者が安心すること」にもあるという。例えば,パルスオキシメーターでSpO2が97%あることを測って見せることだけでも患者の安心材料の1つになる。また,結果がわかるまでの「待つ時間」はつらいものだ。そうした意味でも検査から結果までの時間が短い意義は大きい。
また,検査結果が「日で見える」ことも重要な要素だ。例えば,尿中のブドウ糖に反応する酵素を含んだ一般用の尿糖検査用試験紙などは,目の前で結果を示すことができ説得力がある。
さらに重要なのは,患者の結果をその場で見せ,場合によっては手渡すことで「検査データが患者のものである」という意識を患者に持ってもらうこと,ひいてはともに検査データを見ること、で患者や介護者が学び,判断する能力を身に付けることだと同氏は言う。「患者や家族が成長すれば,訪問前に的確な情報を集めておいてくれるので,診断しやすくなり,結果的に医師も助かります。在宅で検査を行うことは,『参加する医療』のきっかけにもなるわけです」

在宅に検査をうまく取り入れることは医療への信頼の回復の一助になる
ところで,最近では患者自身が在宅で血圧や脈を測定する機会も増えてきている。このことを,太田氏は「患者自身が測定することは,健康管理のうえで非常に音義深い」としたうえで,さらに在宅での専門職の役割への影響について語った。
「患者自身が,血圧や脈などのデータを取れることで,パイタルサインのチェックという訪問者護師の役割を見なおす必要が出てくるなど,看護師の本来業務め質が変わってきました。看護診断の重要性がいっそうきわだってきたのです。パルスオキシメーターの登場で,看護師,患者がSpO2を測定するようになり,医師はもっと先のことができるようになりました」
同氏は,患者自身が行う自己検査により,医療職の業務内容も進化していることを評価している。
同氏はそれに加え在宅検査を行うことは,在宅医療の質の高さを示すことになる,として次のように述べた。
「在宅に検査を上手に取り入れて,在宅でも病院と遜色ない医療が受けられることを示せば,『急性期には病院へ行くしかない』という一般的な在宅医療への感情を払拭することができるでしょう。看取りまで安心して任せられる在宅医療を,希望すればだれでも受けられる体制をつくることが大切であり,在宅に検査を柔軟に取り入れることはその一端と言えます。在宅医療の質をより高めることが,日本の医療への信頼の回復の一助になると言えます」

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