「医療者にできることは何か」を問い
高齢者の生活を支援



太田秀樹

医療サービスに機動力をもたせる

 国民皆保険制度によって、誰でも、いつでも、自由に医療機関を受診することが保障されている。これが「医療のフリーアクセス」と言われるゆえんだが、この制度にも影の部分がある。というのは、「白内障の治療は眼科へ、膝の痛みは整形外科へ、難聴で補聴器の調整には耳鼻科へ、胸焼けには消化器内科へ」という具合に、病気の数だけ主治医をもつことになるからである。それは専門医ばかり養成された”ひずみ”かもしれない。
ヨーロッパやアメリカのように、家庭医、いわゆるホームドクター制度が機能していないため、ささいな健康問題でも、大学病院の門をたたく患者がいると開く。
高齢になると、身体にいろいろ不都合が生じてくる。血圧が高くなったり、目がかすんだり、腰が痛んで歩くのが不自由になったり、物忘れがあって外出がおっくうになったりと、もはや治療がむずかしい病気と一緒に生活しなくてはならないこともある。
そこで私たちは、医療サービスに機動力をもたせ、複数の病気と向かい合いながら生活しておられる皆様に定期的な往診サービスを行うことで、どのような健康問題にも的確に対応できるシステムを作り上げてきた。ケア付き住宅で快適に生活しながら、質の高い医療を受けられるように、内科医と外科医がチームで家庭医機能の出前を開始した。

健康への疑問をその場で解決

 私が内科医の森山貴志先生と外科医の井上成一朗先生らと、府中にある高齢者住宅「きまま舘」に定期的な往診をするよつになって2年が経った。
私たちが往診をする前は、入居者の多くが複数の病気の治療を受け、車いすを使用しながら内科の医院に通院し、血圧の管理をし、整形外科で骨を丈夫にする注射を打ち、皮膚科で軟膏をもらう人もいた。往診によって、血圧の管理も、骨の注射も、軟膏の処方も「気まま館」に居ながらにしてできるようなり、とても喜ばれている。そのうえ、ゆっくりと話をすることができるので、健康にかかわるさまざまな不安や疑間を、医師がその場で答えられる。
トイレに行くのが億劫で、水分の摂取を意図的に減らしていた利用者に、脱水症の危険についてよく理解してもらい、以後水分を十分取るようになって麻痺が改善した人もいる。薬以上に病気に対する理解が重要な例である。
この他、リハビリテーションの専門家である理学療法士や作業療法士などの訪問を受け、筋力を強化して腰痛を予防し、活動的な身体機能を維持することも可能。これらのサービスは介護保険制度によって、要介護認定を受ければ誰でも利用できる。

過剰な医療のない穏やかな終焉

 高齢化すれば死を避けて通ることができない。死について語ることは決して不吉なことではなく、むしろ自分がどのように人生を締めくくりたいのか、明確な意思を私たちに伝えてもらいたいと思っている。
われわれ医師は、病気を治療し、命を救うことだけを社会的使命としているのではないはずであり、安らかな苦痛のない逝き方の手伝いも大切な役割である。
「寿命」と判断されたにもかかわらず、病院で延命治療を受けながら看取られることに、私たちは擬間をもっている。「畳の上で往生したい」という願いは、「住み慣れた我が家で、家族に囲まれて」という、人間として当然の気持ちではないだろか。
「気まま館」では、ここで人生を締めくくった人が何人かいるが、過剰な医療のない最期はとても穏やかで、本当に尊厳ある人生の終焉であったと感じている。
私たちは21世紀型、介護医療生活モデルの最先端を歩んでいるが、それを可能にしたのは日本アビリティーズ社と医療法人が役割分担し、生招のなかの医療をめざしたからに他ならない。皆様の実りある人生のために、「私たち医療者ができることは何か」を自問自答しながら、訪問診療を行っている。

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