ケアを科学する最先端情報誌
GPnet ジーピーネット 2002.10

医療改革と老人虐待


在宅ケアを支える診療所全国ネットワーク
全国世話人・医療法人喜望会理事長
太 田 秀 樹
医療制度改革関連法が、野党反対のなかで強行採決された。増え続ける医療費をどのように抑制するのか、どこの国でも頭を痛めているのだが、わが国の解決策はちょっと違った。医療費がなぜ無駄使いされているのかという根源的な問題にはメスを入れず、自己負担増という形で受診抑制を狙った。
  高齢者医療費の定額制は、コスト意識を欠落させ、重複受診などの弊害をもたらし、医療費高騰を助長したことは事実であるが、虚弱な高齢者らを多く抱える在宅医療の現場では、生命を維持するために必要な医療ですら、十分に提供できなくなる危惧が高まった。
  「おむつ交換は2回以下としてください」。これは筆者が行っているデイサービスに寄せられた苦情の一つである。
  赤ちゃんのおむつ交換なら、その回数を気にすることなどあり得ない。託児所でおむつが濡れたまま放置されていたら、これは社会問題化するだろう。濡れていることに気付いたら、直ちに交換するのが当たり前のことであるにもかかわらず、「交換するな」という指示がまかり通る。明らかな老人への差別であり、介護放棄であれば虐待であるが、その認識はまったくない。わずか数十円であっても、高齢者にお金をかけるのが無駄という家族の本音の現れである。
  痴呆化したり、脳卒中で障害を残し、お世話していただくという卑屈な状況となると、家庭内の立場が変化し、年金までいつのまにか介護者に搾取されていることは、稀なことではない。医療を受ける権利が、家族の意思によって左右され、家族にその気持ちがなければ、医療は容易に奪われてしまう。
  家族の強い希望で高齢者施設から元気に在宅に復帰した例が、経済的理由から、一切の在宅ケアサービスを拒否し、わずか3週間で脱水と低栄養で死亡するという悲惨な出来事を経験している。自らの意思で医療や介護を選択できない弱い高齢者らの医療は、一体誰によって保障されるのであろうか。
  介護保険制度は基本理念に在宅医療の推進をかかげている。高齢者を対象とした在宅医療の発展は、無駄な医療費節減に確実な効果を期待できる有効な処方せんとなりうるだけでなく、望めば住み慣れた自宅で最期を迎えられるような医療供給システムの構築こそ、きわめて人道的な医療制度改革である。老衰で命を閉じるような高齢者にまで濃厚医療を行い、それが医療費として跳ね返るような医療のあり方は改革しなければならない。
  医療施設から制度的誘導で退院させられた症例が、経済的事情で在宅医療や介護保険サービスを受けることなく在宅で放置され、いつのまにか重症化し、再び急性期医療の対象となる。こういった悪循環が起こらないことを祈りたい。とりわけ弱い高齢者らの医療については、特に人道的な深い配慮のある政策を期待したい。弱い人々の暮らしの豊かさこそ、強い国の証左であると信じているからである。

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