患者と家族のための 在宅療養
在宅での自立を支える情報誌
在宅療養を知ろう

    医療法人喜望会  太田秀樹

発行者 全国在宅医療推進連絡協議会
編 集 メディカル・コア
     株式会社日本医学中央会

▼在宅医療とは?

 下の写真は茨城県に住む先天性ミオパチーの子供(3歳)が、高知県にある「やなせたかしアンパンマンミュージアム」に出かけ、憧れのアンパンマンに会った場面です。地元の高知新聞も早速「アンパンマンに会えた!」と新聞紙面の介護・福祉ニュースで伝えました。ミュージアム訪問は「メイク ア ウィッシュ オブ ジャパン」という難病の子供の夢をかなえるボランティア団体の活動です。
この子供は呼吸する筋肉が弱く、人工呼吸器の力をかりて生活しています。子供がお父さんやお母さんと一緒に家族でお出かけをすることは、ふつうの暮らしには当たり前のことです。ところが、人工呼吸器を装着した状態で東京から飛行機にのって高知県まで出かけるとなると、気軽にというわけにはいきません。いろいろな人の協力が必要です。特に航空機を利用した旅は機内の気圧が地上より低く、体内に取り込まれる酸素が少なくなると命にかかわる状態にもなりかねません。そこで訪問診療を行っている主治医や訪問看護師を同伴しての旅となりました。
この話をみなさんはどのようにお感じになったでしょうか。実はこの出来事には在宅医療をイメージしていただくさまざまなヒントがあるのです。
10年以上前には、人工呼吸器を付けた状態で自宅で生活するのはたいへん困難なことでした。なぜなら人工呼吸器は高価で、大型で、且つメンテナンスが厄介で、安全に自宅で使用するにはかなりの無理がありました。ですから人工呼吸器を装着した方が、自宅で生活できる社会的な状況ではありませんでした。そして、医療専門職、例えば医師や看護師が自宅に訪問して健康状態を管理する制度が整備されていませんでした。居宅が医療の場として法令で明確に位置付けられたのは、なんと平成4年のことです。その後、病院や診療所などの施設で行われていた医療が動く時代がやってきたのです。
さらに、市民の意識です。人工呼吸器を装着した人が、レジャーで航空機旅行をすることに航空会社も旅行会社も理解を示さず、日常の当たり前の活動ですら制約があったのです。
しかし高齢になっても、あるいは病気や怪我で障害をもっても、その人らしい暮らしを住み慣れた街で、そして自宅で続けてゆくにはどうしたらよいのか、社会全体が考えはじめました。その答えが機動力ある医療サービスです。求められているところ、必要があるところには出かけてゆく医療を提供できる環境が整のってきました。
だから人工呼吸器を装着した子供が、家族と出かけるときに、医師や看護師が同伴することは、患の権利として、あたりまえのことになりつつあります。
こういった考え方に在宅医療の原点があります。在宅医療だからといっても、けっして自宅に閉じ込める医療ではありません。暮らしの中にとけ込んだ医療なのです。

▼自宅での医療もかなりのレベル
病院では最先端の検査機器が整備され難しい手術も可能です。しかしここでは、ぼけのはじまったお年寄りの急性肺炎の治療を考えてみましょう。
一般に高齢者は環境の変化に順応しづらいと言われています。眠る場所が変わっただけで不安で不眠となったり、見なれない方々と生活するようになると緊張のあまり食欲が低下したり、便秘が悪化したり、あるいは精神的に不安定となって夜間に興奮したりと、入院という環境の変化で身体状況が悪化し、人が変わってしまったというような話しを耳lこすることはめずらしいことではありません。肺炎の治療で入院した結果、肺炎は治ったものの痴呆が進行し、褥そう(病的な床ずれ)もできて寝たきりとなってしまったというのなら、病院での医療はその人にとって本当に質の高いものだったのでしょうか。ですから、いま急性肺炎の治療を在宅で行おうという考えかたも出てきて、実践している医師も少なくありません。
最近は自宅でのレントゲン撮影やエコー検査まで可能です。これは機械が小型化したうえに現像の技術も進み、コンビュターで画像処理を行うと病院の専門医のところにインターネットを用いて検査結果を伝えることもできます。さらに動脈に針を刺ささなくともパルスオキシメーターという機器で動脈血液中の酸素濃度を24時間監視することができ、もし酸素の治療が必要なら、空気中の酸素を濃縮して濃い濃度の酸素を吸入できる機械も簡単に自宅に持ち込めます。もちろん抗生剤の点滴も、栄養の点滴である中心静脈栄養も、つまり病院に入院して行われていた処置はほとんど遜色なく在宅でできる時代が到来しています。
体の機能には、生物医学的な問題だけでなく社会的、心理的要素が大きく関係していることを考えると、在宅での治療もたいへん意義深いものになってきます。

▼在宅医療は医療チームが行う

「夜中に急に熱が出た時、お医者さんに往診をしてもらった。昔は良かったね」。このような会話を聞くことがありますが、往診と在宅医療とは概念が大きく違います。在宅医療と往診がしばしば混同して語られているような気がします。
在宅医療というのは、病院のベッドが地域にあるという考えかたが基本です。病室が自宅なのです。たとえば入院中に医師が回診し看護師が検温に巡回するように、自宅で療養している方のために専門職による回診、巡回を地域で行おうというものです。ですから毎週月曜日は医師が。毎週火曜日、金曜日は看護師が。そして毎週木曜日にはリハビ」のために理学療法士がというように、自宅で療養している方の健康状態にかかわらず、定期的にお宅に訪問するのが在宅医療です。もちろん急に熱がでたというような場合にはすぐ緊急往診ができます。さらに看護師が訪問したときに専門的な立場で脱水が進行していると判断されれば、医師と連絡をとって医師の判断で点滴を行い、病状が重症化するまえに対処することも行います。
このように医師だけが訪問や往診をしていても在宅医療は成立しません。訪問看護師や薬剤師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などのリハピーリスタッフなど、さまざまな医療専門職の仲間がチームで訪問して在宅での療養を支えているのです。
ふだん元気な方が突然発熱したようなときは、かかりつけ医に相談するか、休日や夜間であれば救急病院に出かけるのが常識的な対応です。状態によっては救急車を要請する方法もよいでしょう。在宅医療制度というのは、なんらかの医療的支援なしでは在宅で生活を続けることが困難な、1.虚弱で高齢な方、2.移動、情報、知的、精神の障害がある方、3.神経筋難病の方、4.癌など不治の病で在宅で最期をと望んでいる方などのために整備されてきたのです。

∇介護保険と在宅医療

 平成12年4月には介護保険制度が新設され、40歳になると、すべての国民が介護保険料を徴集されることになりました。この制度は在宅療養をもっと快適なものにしようと、さまざまな福祉サービスと医療サービスが、その垣根をこえて一体的に提供されるもので、在宅療養推進の大きな武器となっています。
在宅で酸素の治療を受けたり、点滴を行なったり、リハビリテーションの訓練を受けたりという医療サービスと同時に重要なのがバ
ランスのよい食事を召し上がったり、脱水の予防を行なったり、入浴したりというしっかりとした生活です。ふつうの暮らしが保障されて始めて医療の意義が高まります。また、楽しくおしゃべりしたり、その中で趣味のサークルができたりする通所ケアサービス。そして介護者が病気になったり、旅行にでかけたりして介護力が低下した時に、施設を利用するショートステイサービスなどが、生活面での支援を中心に介護保険制度で提供されています。
さらに介護保険サービスが従来の福祉サービスと異なることは、サービスを受けることを「権利」と考えていることです。そして、行政によって提供されていたサービスが民間に委託されはじめました。認可を受ければ医療法人や社会福祉法人以外の株式会社や有限会社、NPO法人など民間事業所でも介護保険サービスが行えるようになりました。そのためサービスには市場原理が働くことになり、よりよいサービスを競いあい、サービスを受ける側も自分でサービスを選べるようになったわけです。

▼医療、福祉と地域の産業がネットワーク

 して素敵な在宅療養を

 もしあなたの膝が痛んで、歩くことが不自由になったら、診療所や病院で膝の治療を受けますね。注射やリハビリで治らないときは手術に頼るかも知れません。しかしいろいろな事情で膝の機能回復が期待できないときは、動きの悪い痛む膝で生活することを考えなくてはなりません。住宅を改造して段差をなくし、手すりを付け、畳から椅子とテーブルの生活に変え、そしてもしもご自分で掃除ができなければ介護サービスを利用したりと、日常生活の支援をうけることになります。
しかし、車いす生活となっても、車いすで利用できるスーパーマーケットが近くにあれば、障害をもっても自立して生活を継続できる可能性が高くなります。またボランティア活動が盛んな地域であれば、映画やお芝居を観たりするとき外出介助をしてもらったり、話し相手になってもらったりもできます。つまり個人の障害というのは、そのひとが住んでいる地域や環境によって大きく変わってきます。
お米さんや、酒屋さんの御用聞きも、タクシーの運転手さんも、行政マンも、市民全体が福祉に参加するというマインドをもっていただけると、在宅療養はもっともっと素敵なものになります。
盲導犬と一緒に旅行に出かけることも、海外旅行中に人工透析を受けることも、在宅でホスピスケアを受けることも当たり前にできる時代が到来しています。機動力ある医療サービス、介護サービス、福祉サービスを受けながら、在宅療養で人生を実りあるものとしていただきたいものです。そして願わくば、冒頭に紹介したような出来事が当たり前のこととなって、新聞記事としての価値を失う社会であってほしいですね。


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