「在宅医療」という言葉はもう古い。

これからは「コミュニティ」の時代です

わずか10年前には一部の医師が細々と取り組んでいるに過ぎなかった在宅医療が、近年にわかに脚光を浴びている。診療報酬での高い評価や介護保険制度の充実など行政の誘導もあり、いまや「在宅」は、入院、外来に次ぐ第三の医療としてすっかり定着しつつある。「近いうちに在宅という言葉は死語になる」と太田秀樹先生。在宅医療のパイオニアが語る在宅の将来像とは?

 

問われるのは「場所」でなくマインド

 

―先生には、本誌創刊から1年間『「在宅」の時代』を連載していただきました。在宅医療とは何か、どのように取り組むべきかなど、実践者ならではの示唆に富んだ内容が好評でした。本日は連載の総まとめの意味も含めて、在宅の「今」と「これから」をお話しいただきたいと思います。

太田 具体的な内容に入る前にまず、在宅医療という言葉の意味を確認しておきましょう。私は、「在宅医療」には学術的、制度的、倫理的の3つの側面からスキームをとらえる必要があると考えています。これらが状況や立場によって、また、個人によってばらばらに使われているのが現状です。

―もう少しくわしくご説明いただけますか。

太田「在宅医学」や「在宅(管理)医療学」のような学問はいまだ確立されていないので、学術的な意味を体系的に説明するのは難しいのですが、施設医療とは明らかに違うアプローチの仕方があるのは確かです。病院の医療は、検査機器など設備を駆使して病気を診断・治療します。これに対し在宅医療は、多くの場合、わずかな器具と医師の経験が頼りです。そして患者さんの生活の仕方、考え方、環境なども考慮して行われます。人間の複雑で社会的な側面を重視し、全人的医療を原則とするのが在宅医療です。制度的な意味は単純で、診療報酬の項目にある在宅医療を指します。倫理的な意味での在宅医療は、それぞれの患者さんにとって必要だと判断されるからこそ行われる在宅医療です。我々のように、制度としての在宅医療が整備される以前から在宅医療に取り組んできた者たちが、あるべき姿を目指しながらなんとか形にしてきた在宅医療は、この倫理的側面で語られた在宅医療

です。

 在宅医療を行うためには、他職種や他医療機関、施設、企業、行政などとの連携が欠かせません。現場の担当者同士の連携と、市町村長や企業の社長、施設長、病院長などトップが理念を共有するという意味での連携。この2つは、どちらが欠けても理想を追求できない。理想の在宅医療とは、地域を巻き込んだ医療、つまり、「コミュニテイ・ペイスド・メデイスン」なのです。

−制度ありきではなく、地域に必要な医療を地域で連携して行うということですか。

太田 そうです。制度に誘導されるままに在宅医療を行うというやり方は、医師としては寂しいことです。確かに、在宅医療をやっていく上での困難さ、辛さは、施設医療以上になる局面もあります。しかし、その何倍ものやりがい、感動があるのが在宅医療です。今後、多くの先生が在宅医療を始めると思いますが、ぜひ、ニーズを的確にとらえ、在宅医療に意義と喜びを見い出せるようなマインドを持った方に入ってきてほしいと願っています。

―ハートでなく、マインドですか。

太田 医療や福祉を行う上では、温かいハート、優しさはとても大事ですが、これだけでは情緒的過ぎると思うのです。やはり明確な意志がなければいけない。そういう意味で、私はマインドという言葉を好んで使っています。

 ところで、「在宅」は、「施設」に対する場所を現す言葉として使われてきましたが、地域医療が進んだいまとなってはなんだか古めかしいですね。これからのキーワードは「コミュニテイ」。医療・福祉を含めた「コミュニテイ・ペイスド・ケア」という言葉がふさわしいと思います。

 

在宅は黎明期から発展期、そして充実期へ・・・・・・

 

―在宅医療の初期から今日までの歴史をざっと振り返っていただけますか。

太田 療養の場として「居宅」という言葉が正式に使われるようになったのが1992年。この時期を在宅医療の「夜明け」としましょう。それからしばらくは「黎明期」。94年に在宅患者訪問24時間連携体制加算、在宅ターミナル加算などが診療報酬に新設され、制度の整備が進んだ時期です。介護保険の準備が始まった1998年頃からは診療報酬上の大きな変化はなかったものの、さらに社会整備が進み、在宅医療や訪問看護が市民権を得て「発展期」に移行し、現在に至っています。地域によっては、住民が医療・福祉サービスを利用するシステム(地域包括的医療・ケアシステム)が整備された広島県尾道市のように、充実期と言ってよい段階を迎えたところもあります。内視鏡手術専門といったきわめて特殊な技術をもった専門医でもない限り、在宅を一切しないのも、在宅しかやらないのも不自然だと思います。「医師として地域で働く以上、コミュニテイ・ケアを理解し、協力するのは当然」とされる時代が来ているのではないでしょうか。

―発展期から充実期に移りつつあるいま、あえて先生がマインドを強調される理由は何ですか。

太田 こうして制度に誘導されたり、後押しされたりしなから在宅医療が定着してきた半面、制度だけに頼っていては、良質の在宅医療が担保できない時代が来てしまったと痛感しているからです。100人の入所者がいる有料老人ホームに訪問診療に出向き、全員診て100人分の在宅管理料を請求している医療機関があると聞いています。夜間、祝日休診を堂々と掲げている在宅専門診療所もあります。一部のことですし、確かに違法ではないのでしょうが、このような医療側中心のやり方では、在宅医療のよさが活かされません。制度によってのみ確保される在宅医療と、理想的な在宅医療には、残念ながら大きなギャップがあります。このギャップを埋めるのが、医師のマインドだと思うのです。

―そのマインドは、育てることができるものでしょうか。

太田 医療を志す人の中には、社会の役に立つこと、患者さんの生活を支えたいと本気で考えている人が少なからずいます。質を維持しつつ在宅医療をますます広めていくためには、こうした人がマインドを捨てずに育っていける環境を作ることが大事でしょう。学問としての在宅医療の確立はもとより、医師の倫理、態度といったものを教えていくことが必要だと思います。

―4月から始まる医師の臨床研修の必修化が重要な役割を果たしそうですね。

太田 私の法人も研修の協力機関になっています。研修内容や到達目標など、研修の中身はまだ未定ですが、私としてはぜひ、研修生に在宅の現実を見てほしいと思っています。教科書では決して学べないOJT(On the Job Training)が重要です。特に看護師やPT、OTなどのスタッフと一緒に患者さんの自宅を訪問し、医師には見せない顔を見、医師には話さない話を聞くこと。そして、チーム医療の大切さに気づき、その中で医師が何をすべきかを考えることです。何科に進みたいかではなく、医師として何がしたいのか。1つの選択肢として、在宅医療の本当の姿を知ってもらいたい。在宅に取り組む医師は、人生を切り刻むように夜中も休日も働かなければならないと思っている学生もいるようですが、きちっとチームを作って連携すれば、自分の時間は十分確保できます。一緒に仕事をしながら、また、毎日楽しく過ごしている私の姿を見てもらいながら、そんなことも伝えられれば、不安の払拭にもつながるのではないかと思います。

 

小規模多機能施設はもぅと増えるべき

 

―先生は、これからは「共生型住まい」での医療が大きなテーマだと指摘されていますね。

太田 グループホームをはじめとした共生型住まいが広がりを見せる中、そこで生活する人たちに医療を提供するシステムの必要性が高まっています。私はこうした施設での医療を「第四の医療」と位置づけ、新しい制度のもとで運営する必要があるのではないかと考えています。

―最近にわかに注目を浴びている「地域密着・小規模・多機能施設」についてはどうお考えですか。

太田 大賛成ですね。拠点が小規模であるほど手厚い医療・福祉サービスを提供できるのは明らかです。日本各地で(自然発生的に)生まれた宅老所が徐々にいろいろな機能を備えている状況を調査し、実際の施設をモデルとして制度化されたことで大きな話題になりました。民家のような小さな場所に、ある人はデイサービスに通い、ある人は入浴しに行きます。「デイに通っていたけど、夫が亡くなり1人になったのでそのまま住みついた」なんていうケースも成り立ちます。病気になればそこに医師を呼べばいい。小規模多機能施設のベースには、「なじみの関係を作ろう」という考え方があります。関係性が断ち切られることなく必要に応じて良質のサービスを受け続けられるのが大きな利点です。私も県内のある小規模多機能施設に訪問診療に行っています。いろいろな経緯で集まってきたお年寄りが自然に暮らしていて、実にほほえましいですよ。こうした施設はぜひ増えてほしい、というか、増えるべきだと思います。

―最後に、医師としての先生の今後のビジョンをお聞かせ下さい。

太田 12年前、誰もやっていなかった24時間、365日の在宅医療をスタートさせました。振り返ると無謀だつたかもしれません。ただ、社会の変化もあってなんとか軌道に乗り、複数の事業所、たくさんの従業員を抱える医療法人を維持できていることを考えると、やって来たことは正しかったのだと思います。だとすれば、自分の持っているノウハウを提供することが、医療の発展に役立つのではないかと考えています。地域に根ざした医療を行える若い医師を育てて、その人たちと連携して、点と点が線になり、やがて面になるように、ネットワークを広げていく、なんてことを夢見ているところです。

―本日は貴重なお話をありがとうございました。


TOPへ  おやま城北クリニック  蔵の街診療所  街かどクリニック・世田谷  生きいき診療所  生きいき倶楽部  訪問看護おやま  ケアセンター 居宅生きいき ケア研究所 RISTEX 理事長の部屋  最新情報  アスムス概