ばんぶう 2004 2月号
平成16年2月1日発行 発行所/日本医療企画
the Doctor's Master
   医療法人アスムス理事長
おやま城北クリニック院長
太 田 秀 樹

在宅医療の伝道者
生活密着医療で患者支援

南栃木、茨城県内を基盤に、在宅医療を展開する「医療法人アスムス」。その理事長を務める太田秀樹氏は12年前、専門医、ベテラン看護師らとチームを組み、全国でも珍しかった24時間、365日の在宅ケアに取り組んだ。
在宅医療の利点は、「ストレスのない環境で治療を受けられること」だと力説する太田氏は、患者本位の医療を追求する。また後継者育成のために、奔走する毎日だ。

                                       取材・文=田中士郎 写真=井上裕康
「白衣なんて、まったく役に立たないよ。保健所の立ち入り検査じゃないんだから」
皮のジャンパーにカジュアルなパンツ姿。およそ医師に見えないいでたちで次々と往診をこなす。飾らない性格と屈託のない笑顔で誰からも好かれる「人たらし」!。在宅医療の重要性を伝道する太田秀樹氏の印象である。
「今は毎日、午後に七〜八人の往診をしているかな。でもね、在宅医療は往診だけじゃない。勘違いしている人も多いけどね」
訪問先への道中、愛車のシトロエンを運転しながら、そう話す太田氏の口調は一貫して気負いがない。

在宅医療は地域の回診
変化なくても足を運ぶ
十数年前、自治医科大学整形外科教室の医局長を務めていた太田氏は、身体障害者グループの海外旅行に付さ添う機会を得た。そこで彼らから耳にした言葉が、太田氏の生き方を変えた。
「正直に言うと、それまで医療の質は大学が最高で開業医はちょっと怪しいぞと思っていたんだ。でも付き添った障害者の方から『私たちは医者なんかまったく信じていない』と聞かされたときは衝撃だった。それで大学では学ぶことができないことを経験したい、もっと生活に密着した医療をしたいと思った。当時は在宅医療が見下されていた時代だから自分で開業するしかなかった…」
開業費用は二〇〇〇万円。後先のことは考えなかった。「若かったんだよな。情熱を持っていた。今じゃできないよ」と、太田氏は照れるように笑う。一九九二年、栃木県小山市で在宅医療を旗印とした『おやま城北クリニック』を開業。午前中に外来患者を、午後には在宅患者を診て歩く。
「最初からチーム医療だった」と太田氏が言うように、ベテラン看護師や内科系の専門医とパートナーを組み、全国でも珍しかった二四時間、三六五日の在宅ケアに取り組んだ。
二年後には法人化し、現在、訪問診療、訪問看護などを提供する『医療法人アスムス(旧喜望会)』の理事長として多忙な日々を過ごしている。法人内には、九八年から運営している『介護老人保健施設生きいき倶楽部』や『わくわく訪問者護ステーション』などが組み込まれ、全体で常勤の医師が五名、職員は約八〇名にも上る大所帯となった。在宅患者は一五〇名ほどである。曜日別に担当を決め、内科系と外科系の専門医が必要に応じて訪問できるチーム体制を確立している。「社会的に在宅医療を重視する流れが起こり、随分助けられた。しかし急性疾患に対する従来型の往診を在宅医療と考えている人もいて、違和感を覚えることもある。入院すれば異常がなくても毎日、医師や看護師が診に来るでしょう。それと同じで、患者に変化がなくても必ず足を運ぶ。要するに地域の回診をして、患者の生活を支えることが在宅なんだ。肺気腫の人が山に登りたいと望んだら止めるのでなく、どうすれば安全に登れるのかを考えるということさ」
医師の都合に合致した人しか幸せになれない大学病院よりも、個人の日常に根づいた″生活医を目指す”という太田氏。ちなみに法人名のアスムスとは、「Activities Supporting Medicine Systematic Services」の頭文字を取ったもの。この言葉通り、「患者の活動を支える医療の実践」こそ、太田氏の診療方針なのである。

リラックスした環境が
患者の免疫力高める
「ストレスのない環境で治療を受けられる」。在宅医療の優れた点は、ここにあると太田氏は指摘する。「末期がんと診断された患者が何年も生き続けるなど、医学的に奇跡とされていることが在宅では日常的におこる。理由はわからないけど自宅にいることでストレスが減れば、免疫力は高まる。そもそも病人が転院を繰り返すより、元気な医師が動いたほうがいいに決まっている。とはいえ医師だけじゃなく、家庭の介護カが大切だと、取り組んでみてつくづく思うよ」
訪問先の家庭に着くと、まるで家族の一員のように声をかけ、ドアを開けた。取材の日に訪れた在宅患者の勝見和子さんは、二〇年間関節リウマチに悩まされており、症状が悪化した三年前から往診を受けている。車椅子でしか行動できない状態だったが、今では室内ならば、自分の足で動けるようになった。「月に二回ほど来ていただいていますが、先生が来ると嬉しくてたまらないんです。以前は、病院に行くだけで疲れてしまいました」
その表情は、どこまでも自然体でリラックスしたものだった。在宅医療の真髄を、ここに垣間見た思いである。

診療所の相互協力で
今春から在宅医療研修スタート
訪問先からの帰り道、太田氏は大学の「医学」と、生活に密着した「医療」の違いを聞かせてくれた。「これまで元気だった高齢者が、配偶者を亡くした途端に後を追うように亡くなってしまう。医学的には説明できないよね。医療には社会心理学という側面もある。そんな医療を生活の場に持ち込むにはコミュニケーション能力がないとできないし、病院より診断機器が整備されていないところで診療するんだから、豊富な院床経験は絶対に必要」
現場を肌で知るからこそ危惧することもある。今後需要が増えるであろう在宅医療に対し、提供する側が、現在のままでは質的、物的はもとより、人的にも応えられそうもないということだ。そこで太田氏が発起人の一人となり、本格的な若手医師育成システムをつくろうとしている。
「後期臨床研修の一年間で、熱心に在宅医療を行っている診療所を数ヵ所回り、研修医に場数を踏んでもらう。診療所が相互協力するのは前例がないから、処遇などの問題点もあるけれど、今春から始める予定。研修医に在宅を強要する気なんてまったくないよ。ただ、こんなにおもしろい世界があることを知ってもらいたいだけ」
そのために必要なこととは、「自分が楽しく医療を行うこと」と言う。太田氏は、「僕が疲れた顔をして、つまらなそうにやっていたら、誰も後に続かないでしょ。二四時間営業でも、チームを組んで行えば大変じゃないんだから。往診も好きな車を使って楽しんでいる。このシトロエンなんてお気に入りでね。これで二台目だよ」と笑ってみせた。
この発想こそ、太田氏の真骨項。すべての訪問診療、往診を終え、夕暮れ道を走る太田氏の横顔に、疲労の影は見当たらなかった。


TOPへ  おやま城北クリニック  蔵の街診療所  街かどクリニック・世田谷  生きいき診療所  生きいき倶楽部  訪問看護おやま  ケアセンター 居宅生きいき ケア研究所 RISTEX 理事長の部屋  最新情報  アスムス概要