2004年4月25日発行 GPnet
モジュール型車いすの活用で
寝たきりを予防できるか

医療法人アスムス理事長 太田秀樹

○はじめに

  本稿は、NPO法人在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワークが、在宅医療助成勇美記念財団より平成15年度助成金を受けて行った、「適切な福祉用具の活用による在宅要介護高齢者の自立支援に関する研究」を基礎に、加筆修正を加えたものである。

 研究班(班長:医療法人アスムス理事長太田秀樹)は、最初に要介護虚弱高齢者の車いす活用の実態調査を行った。その結果、車いすの活用において、さまざまな問題点が浮き彫りにされ、厳密に評価すればすべて症例で、不良姿勢が強いられている実態を把握した。

 そこで、これらの。0不良姿勢に検討を加え、6つのタイプに分類した。従来いわれていた3分類でなかった。これは研究の対象が重症者だったためと思われた。

 次に、これらの不良姿勢がモジュール型車いす(写真1)とクッションの適応で改善できるか検討した。そして、車いす利用者自身と介護者から、使い勝手に関する聞き取り調査を行った。その結果、モジュール型車いすとクッションの利用で、移乗がより安全に容易に行えるなど、日常生活動作の改善が示唆され、これは自立支援に大きく貢献できると考えられた。さらに、いわゆる寝たきりといわれる高齢者にも、座位保持が可能であることが示され、離床を可能とすることで、寝たきりが予防できると考えられた。

 安定した座位保持により嚥下機能の著しい改善を示した例など、寝たきりを含む廃用症候群が、寝かせきりから作られるという仮説を強く裏付ける結果となった。

 しかし一方で、モジュール型車いすの利用を快適でないと答える高齢者も存在し、その傾向は軽症例により顕著であった。すなわち、障害が重症化すればするほど、モジユール型車いすの真価が発揮できると考えられた。

 また介護者の評価では、介護経験の浅い者より経験を積んだ者が、操作性の点で扱いにくいという印象を持つ傾向があった。従来から用いられていた普通型車いすが、介護者にとっては扱いやすいためと思われた。これは車いすが、利用者の視点ではなく、介護者の都合で使われていた歴史を物語るものであると思われた。

 モジュール型車いすが、寝かせきりの予防と自立支援にきわめて有効な手段となることが理解され、介護度が高くなればなるほど、モジュール型車いすが有用であることが示唆された。介護用ベッドの処方と同時にモジュール型車いすとクッションの処方がなされると、日常生活活動の改善から自立度が高まり、寝たきり予防に貢献できるだけでなく、介護負担の軽減に大きく寄与すると考えられた。

 以上の内容をより実践に役立つようポイントを絞って数回にわたり掲載していく。

○研究の背景と目的

 介護保険サービス利用者のなかで、福祉用具を適切に利用している者の割合はまだ低い。介護用ベッドは比較的多く貸与されているものの、一方でベッドと車いすを同時に利用している利用者は少ない。介護用ベッドを必要とするものの多くは、麻痺など移動の障害があってベッド上の生活となっているのだから、安定した歩行が可能なものは少ない。したがって、車いすを必要とする症例が多いことは、容易に想像される。しかし、現実は車いすへの関心や理解はたいへん薄い。

 その理由は、介護保険制度運用の要となっているケアマネジヤー自身に福祉機器への理解が浅く、福祉用具がケアプランに適切に組み込まれていないからだけでなく、社会全体の認識が乏しいことに起因すると思われる。福祉用具を積極的に有効活用することで、自立度が高まれば、介護負担が軽減され、これは今後高騰し続けると予想される介護費用の節減に大きく寄与することになるはずである。

 介護保険制度導入に際し、介護力を補完するマンパワーの養成は盛んに行われてきたが、福祉用具活用の啓発活動、福祉機器の開発等への予算配分は少なく、制度的バックアップは少ない。福祉機器の活用で、人的サービスに頼ったケアの内容や質が大きく変化し、介譲負担が大幅に軽減されることは、すでに諸外国では実証されている。ところが、わが国では不適切な福祉用具の適用が障害・虚弱高齢者の自立を支援するどころか、むしろ「寝たきりを助長しているのではないか」という症例に出会うことは、残念ながら稀なことではない。

 車いすを例にとるならば、歩行が障害された方々にとってそれは移動の手段であり、ある意味では身体の一部であると言うこともできる。したがって、車いすの選択や適応を誤れば、疲労や腰痛などで長時間の座位保持が困難となり、離床の有効な手段とはなりえない。

 また、従来の車いすがアームレストやフットレスト固定式となっていることになんら疑問の声が聞かれないが、アームレストが跳ね上げ式であれば、一人でベッドやトイレに移乗できる身体機能を残した症例も少なくない。さらに、たとえ介助を要したとしても、わずかな援助ですむことが多い。フットレストも同様である。

 福祉先進諸外国では、車いすのほとんどがモジュール型であり、利用者の身体的状況や生活様式に応じて可能な限りオーダーメイドで用意されている。モジュール型車いすは、使用者の身体に合わせて部品を組み換えて、その場で仕様が変えられる。写真2〜5はモジュール型車いすの機能を示す。部品を交換するだけであらゆる障害に対応でき、生涯にわたって最良の状態で利用できる。アームレストやレッグレストを取り外せるので、移乗の時や、片麻痺の人が足こぎ走行する時に、妨げにならないようにできる。また、非常にコンパクトになる。身体状況の変化により不要となった場合でも、補助器具センターが回収し、再利用を可能としているのである。

 車いすは近視の人の眼鏡と同様、個々の障害に応じて誂えられるべきものであり、車いすに身体を合わせて利用するものではない。

 ここで、日本の福祉用具利用の現実に目を向けると、第2次世界大戦終了後に用いられていたいわゆる普通型車いすが、21世紀の現在もスタンダードタイプとして汎用されている。いす文化の歴史の残さにも起因すると思われるが、介護保険制度施行後も同様で、車いすに対する理解は著しく不足している。

 そこで普通型車椅子利用においての問題点を調査してみた。

○普通型(スタンダードタイプ)

 車椅子の問題点の調査

1.目 的

 介護を要する虚弱高齢者が普通型車いすを使用して生活する場合、どのような問題が生じているのか、座位姿勢を中心に実態を調査した。

2.対 象

 おおむね、要介護3レベル以上で日常生活に車いすを必要としている高齢者21名。在宅高齢者は、71歳から87歳までの男性3名。80歳から91歳までの女性4人。施設高齢者は、68歳から95歳、平均84.3歳。男性3名、女性11名であった。平均要介護度3.5(表1)。

 原疾患は脳血管障害が多かったが、いわゆる典型的な老人姿勢によって歩行が障害されたものもいる。在宅高齢者は十分にコミュニケーションが図れ、訴えに信頼性があり研究に協力できる方としたが、施設高齢者は、痴呆などを合併しているものもその対象としている。

3.方 法

 車いすを利用している状態をデジタルカメラで撮影して、座位姿勢を調査した。その後、カナダ・]センサーテクノロジーコーポレーション(商品名 ]センサーS座圧測定装置)(写真6)を用いて、座面の圧測定を行った。

4.結 果

(1)普通型車いすで座位保持姿勢に問題があったと考えられたのは、調査した全例であった。座位が安定しない症例は、時間とともにさらに姿勢が崩れ、斜めに傾いたり、滑り落ちそうになった。

(2)仙骨部や座骨部に褥瘡の既往があって、臀部の痛みや不快感を訴える症例3例。

(3)不良座位姿勢が原因と考えられる摂食嚥下障害2例。

 そこでこれらの不良姿勢の分類を試みると次の6つに分類できた(表2)。

@ 円背 Roundbacktyp¢(以下、RBタイプ)図1〜3 女性3例

  全例が、骨租しょう症などが進行して多発する背椎骨の圧迫骨折により、高度な円背となった女性であった。この姿勢を長時間続けると、脊柱の前傾(胸椎の後彎)増強され、座位保持は困難となった。この姿勢は腹部への圧迫が強く、食道裂孔ヘルニアが生じると逆流性食道炎の発症が高率となるといわれている。平均要介護度は、3.0であった。

  図1は、イメージ図で、典型的な症例は図2である。座圧の測定(図3)では、仙骨から尾骨部で局所的、に圧が高い。

A 仙骨座リ PeIvic榊(以下、PTタイプ)

 図4〜6 女性2例、男性1例

骨盤が後傾し、臀部が前方へずれ、仙骨で座位を維持する。多くの場合、円背も伴っているので、頚堆の前彎によりあごを突き出し顔面は上方に向いている。この姿勢は嚥下機能障害を認めた。平均要介護度は3.0であった。

 図4は、イメージ図で、典型的な症例は図5である。座圧の測定(図6)では、仙骨から尾骨部で局所的に圧が高い。

B側攣 Scoliosistype(以下、SCタイプ)図7〜9 女性6例、男性2例

 片麻痺など左右の筋力のバランスが悪くなると、体幹が麻痺側に傾斜する。8例中6例は麻痺側への側彎だったが、2例だけ健側へ傾斜していた。

 これらの痘例はすべて脳血管障害で障害が重度で、平均要介護度は3.6と高かった。

 図7は、イメージ図で、症例は図8である。座圧の測定(図9)では、側彎を呈している側に強い圧がかかり、非対象となっている。凹側の座骨部に局所的に強い圧がかかっている。

 さらに姿勢の変化が混在しているものがあり、これらは重症で平均要介護度は4.1であった。強い側彎を呈して、円背を伴う(sc+RBタイプ)、あるいは仙骨座り(sc+PTタイプ)、その両者を併せ持つ(sc+PT+RBタイプ)がある。要介護度から堆し量ってもより重度といえる。

C SC+RBタイプ 図10〜14 男性1例、女性2例 平均要介護度4

  図10・11は、イメージ図で、症例は図12・13である。座圧の測定(図14)では、側攣を呈している側に強い圧がかかり、非対象となっている。凹側の座骨部に局所的に強い圧がかかり、仙骨・尾骨部の圧も高い。

D SC+PTタイプ 図15〜19 男性1例、女性2例 平均要介護度4

 図15・16は、イメージ図で、図17・18である。座圧の測定はバ判例 1

症個では、側彎を呈している側に強い圧がかかり、非対林となっている。凹側の座骨部と仙骨・尾骨部に局所的に強い圧がかかっている。) 

E SC+PT+RBタイプ 図20〜25 女性1例 平均要介菱度5

  図20・21・22は、イメージ図で、症例は図23・24である。座圧の測定(図25)では、側彎を呈している側に強い圧がかかり、非対称となっている。凹側の座骨部と仙骨・尾骨部に局所的に強い圧がかかっている。

  なお理論的には、(う円背と仙骨座り(RB+PTタイプ)図26〜27はイメージ図での重複姿勢も考えられるが、今回の調査ではなかった。

○まとめ

 おおむね要介護度3レベル以上で歩行困難な要介護高齢者は、脊柱の変形や麻痺などにより、安定した座位を普通型車いす上では保持できていない。厳密に言えば、全症例が適切に車いすを利用していないといえる。この結果は普通型車いす利用にきわめて大きな問題があるといわざるを得ない。

 既に一般に理解されているように、座位保持が困難であれ例えベッド上の生活となり、結局寝たきり老人をつくってしまうことになる。

 従来、車いすでの不良姿勢を3つに分類してその特徴が分析されていたが、重度化した高齢者の姿勢は6つに分類して考えることが妥当である。特に、要介護度が高まると側彎を呈している症例が多くなり、これらの症例は普通型車いすでは数分間の座位保持も困難で、姿勢が崩れるため、ベッドでの療養を余儀なくさせられることが明らかとなった。

 次回は、これらの不良姿勢を呈する症例にモジュール型車いすを活用してみる。

*在宅医療助成勇実記念財団:住野勇氏(オートバックスセブン特別顧問)が、株式公開から得た資産は社会に還元すべきとの信念により、2000年7月に財団を設立した。財団名の勇実はご夫妻のお名前である。この基金は在宅医療に携わる方々の支援を目的としている。基本財産39億円。

 

・住所:東京都千代田区平河町2−7−9 全共連ビル

・電話:03−S226−6266

・URLhttp:〃www.zaitakuiryo−yuumizaidan.com

TOPへ  おやま城北クリニック  蔵の街診療所  街かどクリニック・世田谷  生きいき診療所  生きいき倶楽部  訪問看護おやま  ケアセンター 居宅生きいき ケア研究所 RISTEX 理事長の部屋  最新情報  アスムス概要