読売新聞 2002年(平成14年)6月14日掲載
医療改革案巡り宇都宮で公聴会

平成14年6月13日

 ご指名いただきました、太田ござます。

私は、10年程前から、在宅医療を精力的に推進する診療所を運営し、現在約200名方々の在宅療養のお手伝いをしております。24時間365日の支援を、4名の常勤医が当番制で行っております。対象者の約70%が高齢者でございまして、あと障害者や神経筋難病の方、そして、在宅で最期をとお望みになる数名の癌末期のかたを抱えています。限られた時間のこの場をで、在宅医療の姿を御紹介できませんので、新聞などメディアの紹介記事を資料としてお持ちしましたので、御覧ください。

地域医療を担う医師のなかでも、患者の生活にもっとも近いところでの医療を行っていると考えております。

今回の医療改革でございますが、無駄が省かれ、合理的に効率的に、効果的な医療が提供できる環境整備につながっていくのか期待できるものではありません。現場にいるものとしては、けっして満足できるものではなく、疑問すら禁じ得ません。

高騰し続ける医療費をどのようにしてゆくのかという問題は、これは我が国だけでなく、先進諸外国がおしなべて頭を抱えている問題でございますが、例えば長期入院是正という視点からも、在宅医療の推進は、医療費の削減に極めて効果できであり、財政論を優先させるまでもなく、極めて人道的な医療でございます。

インフォームドコンセント、リビングウィル、患者の権利再認識、カルテ開示など、さまざなな形で医療を取りまく環境が変化し、国民の意識改革も進んでまいりましたが、患者中心の医療という理念を具現化した医療形態は、まさしく在宅医療でございます。

資料2でございますが、これは共同通信が全国に配信したものです。この症例の現在の医療費(レセプト)は次の資料3にありますが、現在3400円以下であることは、すでに御存じでございましょう。しかし、今後1割、あるいは2割負担ということになりますと、この例で、1万円〜2万円となることは、単純な計算で、おわかりいただけますね。

10月より現在の3倍〜5倍の負担増となります。

 一方この症例を病院に入院させた場合、何も医療をしなくとも、40万円近い医療費となります。介護保険施設を利用しても、30万円程度の支出となりますが、在宅医療は、その1/3〜1/5程度の支出であります。

 自己負担増という経済的な理由で在宅医療の継続が困難となる例が、増加することが予想されます。

 現場では、「おむつの交換は一日、2回にしてくれ」といった苦情が舞い込みます。僅か一日100円程度のおむつ代を節約しようという家族は決して少なくありません。濡れたおむつ交換をしないのは、老人虐待ですが、その意識は、現在の日本にありません。

 私どもの施設から、家族の意向で、退所した症例が、医療費の問題で訪問看護を拒否し、僅か2週間後には、脱水と低栄養で死亡した例もあります。もしそこに介護放棄があったとしたら、犯罪なのかもしれません。

 病態を悪化させてから、救急車で救急病院に坦送され、こってりとした医療が行われれば、すでに病院での死亡前医療費高騰がデーターとして示しているように、返って医療費を増加させることになるだけでなく、人権という観点からも、大変問題のある状況であります。

 高齢者のなかには、痴呆や身体的な障害で、家庭内の立場が弱くなると、個人の年金ですら、自分で自由に使うことができず、家族に搾取されていることはけっしてまれなことではありません。

 弱い高齢者の医療負担増は、おそらく狙い通り、受診抑制につながり、必要な医療支援すら十分に行われなくなるでしょう。病態を悪化させ、複雑化させたうでの、結局濃厚な医療提供につながることになると思われます。

 経験的に高齢者が抱える医学的問題点は、脱水と低栄養、薬物の過剰、長期、多剤投与です。ところがこれらの高齢者の抱える健康問題の解決に、訪問看護など木目こまからな医療支援があれば、さほどお金を掛けづに早期に適切な対応が可能です。

 在宅療養の推進は介護予防にもつながり、さらに在宅での看取りへの国民的合意こそ、無駄な医療費の支出をなくすものでしょう。

薬価が医療費に占める割合が高いという事実についても、是非ここで御認識いただきたいのですが、 資料5は、大変ポピュラーな高血圧症の治療薬の値段リストです。

 高いもので一錠210円のものもから、安いものですと、いわゆる後発品といわれる8円程度のもまであります。毎日服用しますから、その差は、一剤で、約200円。30日で実に6000円。年間で数万円の差です。

 今後自己負担増となれば、より安い薬を患者が希望することが予想されます。また包括払いとなれば、医師もより安い薬を利用する傾向に拍車がかかるでしょう。しかし、一方でEBMの推進(根拠に基づいた医療の推進)と言われているように、投薬の内容は、医学的根拠に基づくものであります。良質の医療というものは、経済的な誘導で行われるものではありませんから、科学としての医療の本質が揺るがす危惧をすてきれません。

 そして最後にこれは、是非皆様に実態を御理解いただきたくお示ししますが、全く同じ薬効の薬物を、商品名変え、力価を変えて、剤型を変え、実に9倍以上値段を挙げて認可されている薬の例でございます。このメトトレキセートという薬は、僅か49円ですが、あるとき514円と跳ね上がっています。 薬剤費が、医療費高騰の元凶(げんきょう)であるという分析があるなかで、なぜそれに輪を架けるようなことを、おやりになるのか、どのような事情がお有りになっても、これは疑問をこえて、憤りを感じます。

 時間でございますので、要点をもう一度申し上げます。

1.弱い高齢者からの自己負担増は、現状を鑑みる上で、必要な医療の機会を奪うものではないでしょうか。

 2.在宅医療の推進という文言が、今回の医療改革から消えていますが、在宅医療の推進こそ、医療費の高騰を防ぎ、医療への信頼回復を期待できる具体的な方法であると考えます。自己負担増はとりわけ在宅医療の健全な発展に大きく水をさすものと考えます。

 3.在宅医療の現場では、おびただしい数の残薬があります。平均一医療機関にかかると、約4.3剤の投与をうけ、平均3箇所の医療機関をはしごしているようです。つまり10数の薬の頂いて、すべて服薬しないまでも、自宅にためこんでいるのが実態です。

 自己負担を増額させるような手法でなく、適切に薬物が投与されるような仕組みや、ルールの整備こそ、まず行われるべきではないでしょうか。

 正しい薬を正しい口に。昨年訪問したデンマークの保健省で伺った言葉です。

 以上私の10年にわたる在宅医療の経験から、制度と乖離している、実態について陳述させていただきました。御静聴ありがとございました。

TOPへ  おやま城北クリニック  蔵の街診療所  街かどクリニック・世田谷  生きいき診療所  生きいき倶楽部  訪問看護おやま  ケアセンター 居宅生きいき ケア研究所 RISTEX 理事長の部屋  最新情報  アスムス概要