訪問看護と介護〔第8巻・第10号〕 
医学書院  管理者日誌 F
開設から4年、経営状況を振り返って思うこと
医療法人アスムス
わくわく訪問看護ステーションゆうき
平 澤 由美子

ようこそ,健診会場へ(?)

 午前10時すぎ,近所のおばちゃんたちが集まって,お茶を飲むのどかな時間。ちょうどそんなところへ訪問すると,「あたしもちょっと血庄測ってくれっかい?」と腕が出てくる。さらにすごいのは,「今,看護師さん来てるからぁ,血圧測ってもらいなよ」と,道を歩いている人まで拉致されてしまう。こうして,本当の患者1名とその家族,私の知らないご近所のおばちゃん数名,ざっと6〜7名の血圧測定が始まり,その家は健診会場となる。

 ここで(あなたたちは関係ないでしょ‥‥)なんて思ってはいけない。近い将来,うちのお客様になるかもしれない方々なのだ。日頃のサービスはとても大切。もちろん営業用スマイルも忘れずに。「うちも,そのうちこうやって来てもらえっかな」(しめしめ,と私)「〇〇さんも頼みなよ。ホントに助かるから」(そうそう,その調子)

「でも困ったよ」

「何が? と−ちゃん元気すぎて?」

「うん,そ−なんだ」

(あら〜ん,利用者の増加はまだまだ先ね……)

 管理者になって以来,「経営」の2文字が常に頭から離れない。それまでは,私には無関係だった経営なんて世界に,少なからず足を踏み入れなければならなくなった私の災難(?)と,今までのステーションの状況を振り返ってみたいと思う。

経営は人を変える?

 介護保険制度の導入に先駆けて,おやま城北クリニックの訪問看護部から分離し,「わくわく訪問看護ステーション」として再スタートを切ったのは,平成11年10月のことだった。100%田舎者の私が,冷や汗をかきながら電車を乗り継ぎ,やっとの思いで東京まで通った1週間の管理者研修を思い出す。「新しく事業を始めるとき,3年間は赤字でもしょうがない。ただし,4年目に黒字にならなかったら,その時は,ちょっと考えなけりゃいけませんよ」。ある講師がそう言っていた。4年経った今でも覚えているのは,この言葉だけである。「そうか,3年は赤字でもいいんだ」と,自分に都合よく言い換えて,ホッとして帰ってきた。
3年もあればなんとかなる。看護師2.5名の場合,患者数30名でほぼトントンらしい。当ステーションの場合,事務員も配置してくれるらしいが,それでもまあ,患者が40名になれば黒字になるだろう。単純な上に大ざっぱな,いわゆるどんぶり勘定をして,とりあえず「3年後には,患者数40名」を目標にした。いや,待てよ。うちのあの太田理事長はせっかちだから,ここはひとつ2年後くらいにしておこう。そう心に決めて,訪問看護ステーションは始まった。

 開始早々に頭を抱える原因となったのは,私の予想をはるかに超えて,せっかちこの上ない理事長だった。スタートしてわずか1か月もたたないうちから「どうだ,患者は増えたか?」と,この間までは呼んでも来ないステーションに,呼びもしないのにやってくる。これには参った。ひととおり挨拶回りはした。それでも努力が足りないとのたまうなら,かくなる上はパンフレットにティッシュでも付けて,駅前で配ろうかと思ったほどだったが,何はともあれ,私の目標は1年半後には達成された。

 訪問看護療養費は5300円で,それまでの医療機関からの訪問看護・指導料と変わりはなかったが,訪問看護ステーションになると,これに管理療養費の2900円(月の初日は7050円)が加算される。「なんだ,ステーションの方が儲かるじゃん」と最初は単純に喜んでしまった。ちなみに,この管理療養費とは,<訪問看護計画書及び報告書を主治医に提出するとともに,必要に応じて主治医との連携確保や,訪問看護の実施についての計画的な管理を,継続して行なった場合に支給されるもの>とされている。同じ法人内とはいえ,当然すべき手続きはきちんとしなければならず,その手間を考えると,それほど喜んでいる場合でもなかったのだが,それに気づいたのは少し後だった。

 患者数25名からのスタートだったので,言うまでもなく最初は赤字である。しかし,3か月後には患者数も35名になり,収入もいい調子で増え,訪問看護はなんておいしい商売かしらと舞い上がった。訪問回数が足りないとか,処置伝票にチェック漏れがあるとか,細かいこと(?)に目をつりあげて怒る事務のお姉さんの気持ちも,「患者は増えたか?」と何度も姿を現した理事長の気持ちも,実によくわかるような気がした。収入が増えたからといって,自分たちの給料になんら影響があるわけでもないのだが,それでも毎月出てくる金額を見ると,実績を客観的に示されているようで,楽しみでもあり,一方で怖くもあった。訪問看護の質とは無関係のところでこのまま自分の性格が変わってしまわないように,少し冷静になろうと努力した。

介護保険の大打撃

 平成12年4月に介護保険制度が導入されると,訪問看護ステーションもそのなかのサービス事業者の1つとして位置付けられた。ところが,訪問看護ステーションに限り,医療保険の通用もあることが他の介護保険サービスと異なった。この人は医療保険だ,この人は介護保険だ,はたまたこの人は,介護認定を受けているけど訪問看護は医療保険だ……と,4月を前にして混乱を招いていた。この混乱は4月以降もしばらく続き,ケアマネジヤーもよくわかっていないようで,「限度額がいっぱいなので,訪問看護は医療保険でお願いします」なんてことをよく言ってきた。その都度,「介護認定を受けているなら,この方の場合は医療保険ではいけませんよ」とか,「この方の病気だと,訪問看護は医療保険の対象になるので,サービス利用票には入れないで下さい」とか,ケアマネジヤーの指導までするはめになっていた。

 もう1つ,やっかいな問題があった。身体障害者福祉法とのすみわけである。主に,身体障害者手帳の交付を受け1級・2級に認定されている方たちは,自己負担なく訪問看護を受けられていた。ところが,介護保険の認定を受けたとたん,この制度は通用されず利用料の1割負担が生じる。利用者側にしてみれば,介護保険料も取られ,利用料も取られるようになってしまうこの事態,どう考えても納得いかないという顔だった。それでも訪問を断られるということはなかったが,利用者宅の経済状況や限度額を考慮した上で,訪問回数の減少を提案せざるを得ないケースも何例かあった。

 当初は,対象者全員にとにかく介護保険の申請を出さなければならないといった誤解もあったが,1〜2か月経過し事態が落ち着いてくると,現在利用している,あるいは,これから利用すると考えられるサービスを踏まえ,医療か介護かの選択を,利用者とともに十分話し合いながら行なえるようになった。「とりあえず,看護師さんだけ来てくれればいい」と言う利用者の場合,申請は急かなかった。あまり大きな声では言えないが,医療保険で行なう利用者が1人でも多い方が,ステーションの経営も助かった。もちろん,あくまで利用者の立場に立って,最善と思われる選択をした結果である。必要であれば,介護保険の申請やケアプランの作成,およびサービス提供のための業務の調整や事業所への依演,交渉など,すばやい対応を常に心がけた。

●利用者負担増,でもステーションは減収

 介護保険で訪問することが決定したら,今度は時間の設定である。訪問看護1(30分未満・4250円)か,2(1時間未満・8300円)か,はたまた3(1時間半未満・11980円)か。3はほとんどなかったが,それまでの経営状態を維持するためには,2が必要であることは明白だった。しかし,年金で細々と生活しながら「老老介護」で頑張っているお宅,普段の訪問時間が35分くらいという微妙な時間のお宅,話がやたらと長くて帰るに帰れず,足が痺れてしまうほど時間ばかりかかってしまうお宅など,ついつい心が痛くて訪問看護2には設定できなかった。それまで老人保健での利用料が250円だったこともあり,それが830円になるのが忍びなかった。したがって,訪問看護1の425円で手を打った。緊急時訪問看護加算の1370円も,非常につけにくい値段ではあったが,これがないと閉店せざるを得ない事態になりかねないので,できるだけ了解をいただき加算させていただいた。

 こんな親切な(?)ステーションだったので,出てきたレセプトは当然落ち込んだ。利用者の負担は増えるのにステーションの収入は減る。双方にやさしくない介護保険だと思い,せめて訪問看護ステーションだけは,介護保険サービスから外してくれ−!と心から願った。

ケアマネジヤー様

介護保険という冷たい向かい風にさらされて,この先いったいどうなることかと不安であったが,開始から2〜3か月も経過すると,訪問看護ステーションを持たない他の事業所のケアマネジャーからの依頼が増え,市の介護保険課の窓口からの相談や,依頼も来るようになってきた。

 介護保険制度になる以前は考えられなかった,他の事業所やケアマネジヤーとの交流,市役所等への頻回な出入り。利用者にとって,受けているサービスは変わりないのに,そのしくみが変わって,在宅サービス業界の中で繰り広げられる,持ちつ持たれつのこの奇妙な関係。世の中の変化をひしひしと感じながら,依頼があれば断ることなく受け入れ,コツコツとサービスの提供に努めた。おかげさまで,ステーションの収入は3か月目には回復し,その後は,時期によって多少の波はあるものの,まずまず安定した状況が続いている。

 訪問宅との信頼関係もさることながら,「わくわくさんに頼めば安心して任せておける」と言っていただけるように,ケアマネジヤーからの信頼を得ることも,生存競争の中で生き残るために重要だとしみじみ感じている。正直なところ,看護師という商売も楽じゃないと思うようになった。

●質と適正さを保つための“限界,

 行き届いたサービスを提供するためには,ある程度のゆとりも必要である。訪問先で,時間どおりにことが運ばない場合もあるし,緊急時の対応もしなければならない。時間のゆとりがなければ心のゆとりも失いがちになるし,移動時間の車中も,ハンドルを握ったとたん180度性格が変わり(これはいつもか?)危険である。精神的ストレスが溜まれば記録も溜まる。看護師3名,作業療法士1名の当ステーションでは,患者数45〜50名,ひと月の訪問件数にして250件前後という現状が,良いサービスを提供するための限界と感じている。

 本来,介護保険サービスは,利用者と事業者との契約で成り立つものだから,利用者が訪問看護を希望してくださるのであれば,よほどの理由がない限り,サービスを提供するべきだと思っている?だが,どこの事業所も飽和状態になりつつある今,利用者のニーズを満たすべく,適切なサービス内容の把握やそれに合ったサービス事業所の選択,利用者への説明等,ケアマネジヤーの力量がさらに問われる時期になっているのではないだろうか。ケアマネジヤーとの関わりは,活動していく上で欠かせないものであり,利用者と同じくらいに付き合いを大切にしなくては,と思ってはいるのだが,少々頼りないケアマネジヤ←を前にすると,余計な口出しをしてしまうのは直りそうもない。

必要とされるステーションであるために

●利用者のためなら〜エンヤコラ〜

 患者数は45名前後まで増え,ステーションの経営は黒字街道を走っているわけであるが,今までの状況は「あまり威張っては言えない黒字か,それとも,まずまず胸を張って言える黒字か?」と経理担当に聞いたところ,「立派なもんですよ」と言っていただいた。良くここまでやってこられたものだと自己満足に浸りながら,周囲の皆様に感謝しているのだが,毎日が忙しくなると徐々にイライラが募ってくる。先日,「週2回の入浴介助をお願いします」とケアマネジヤーから依頼があった。さすがに厳しい状況だったので,1回ならまだしも2回は無理と,ステーション開設以来,初めてお断りさせていただいた。もちろん余裕がないからお断りしたのだが,「まったく! うちは訪問入浴サービスの事業所じゃないのよ!」と心の中で生意気なことを思ってしまった。これはよくない。初心に帰らねば,と家に帰って布団のなかで反省した。

 余談になるが,少々言い訳をさせてもらいたい。うちのステーションは自宅の風呂での入浴介助が多い‥…ような気がする。他のステーションの実情がどうかはわからないが,適所サービスにはなじめない内弁慶の男性方,体力的に通所が困難な方,庭や家屋のスペース事情で訪問入浴車が入れないお宅,根本的なところでは訪問入浴サービス事業所の不足等が理由だろうと勝手に分析している。しかし,入浴でお困りの方を目の前にすると,ついつい言ってしまうのである。

 「お風呂場を貸してもらえるなら,私がお手伝いしましょうか」

 (あっ,言ってしまった)

 かくして,自分で自分の首を絞めたやさしい看護師さんたちは,首からタオルをぶら下げて,これでもかとめくり上げたジャージからは,その太くて美しい足をさらけ出し,3人それぞれに,毎日誰かの入浴介助に勤しんでいるのである。

●変化の波の中で,必要とされ続けるために

 昨年10月,老人医療の自己負担が1割になる時,「どれくらい患者が減るだろう」と,理事長がとても心配していた時期があった。

「そんなに変わらないでしょ−」

「お前らはのん気でいいな」

 なんて会話をしたものである。確かに当法人をしょって立つ経営者と違い,我々は雇われの身なので,理事長から比べてのん気なのはしょうがない。しかも,この件は,ほとんどの利用者が介護保険,残る医療保険も,1名を除き公費角担でサービスを提供しているから,ステーションにとっては何ら影響のないものであった。だが待てよ,クリニックとステーションの請求書をまとめて,利用者宅へ持って行くのは私たちである。利用者は合計金額こそ気にするが,請求書の区別はあまり認識していない。これはもしかして,「あんまりお金がかかるんで…」なんて,ステーションにも悪影響を及ぼすかもしれないと,少々懸念された。しかし,幸いなことにクリニックとともに,この患者減少の危機は免れたようである。

 この時期,ふと思った。医療費が高くなるからといって,断られるような在宅医療や看護を提供して来たわけではないでしょう,と。そして改めて思った。医療も介護も,今後どう変化していくか分からないなかで,利用料うんぬんごときでぐらつくようでは仕方ない。胸を張って存在し続けるステーションでありたいと思う。そのために,看護師として何が必要かと考える時,本に書いてあるようなこと,訪問看護師としては当然のことしか浮かばない。ちなみに,総合的な判断力,高度な看護実践能力,教育・指導的能力,調節機能,協調性,研究・開発・創造性といったことだ。

●在宅はKKD?

 そういえば理事長は,EBM(Evidence−Based Medicine)にかぶれているのに,「在宅は,勘と経験と度胸のKKDだ」なんて本音を口を滑らせて言っていたことがあった。思わず笑ってしまったが,私なんか,勘は鈍いし,経験なんていくら積んでも積み足りないし,ほとんど度胸だけでやっているようなものかなと思った。だけど,なんだかんだと言っても,真心こめたサービスを明るい笑顔で提供することが,現場からのエビデンスで,経営安定のための何より有効な手段だと信じ,今日も健診会場へ‥‥いやいや,訪問宅へと車を走らせるのである。